2012年前期　第4回　細胞生物学セミナー

日時：6月19日（木）17:00~

場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

Drought-induced root aerenchyma formation restricts water uptake in rice

seedlings supplied with nitrate

Yang, X., Li, Y., Ren, B., Ding, L.,Gao, C., Shen, Q., Guo, S. (2012)

Plant Cell Physiol. 53: 495-504

乾燥により引き起こされる根の通気組織形成は、硝酸塩を与えたイネにおける水吸収を制限する。

　水は植物が生きていくために非常に重要であるため、水が不足する水ストレス状態に置かれた植物は、細胞分裂の阻害、気孔の閉鎖、光合成の阻害などのさまざまな悪影響を受ける。水ストレスは植物の成長阻害の最も大きな要因であり、植物の乾燥耐性と栄養状態の関係について注目されてきた。栄養状態については2種類の窒素形態（硝酸塩とアンモニウム）を高等植物に与えたときの影響について、トウモロコシ、コムギ、タバコ、マメ、イネを含む数多くの植物種で集中的に研究されてきた。また、水不足に置かれた状態での高等植物の水吸収についても研究されてきた。特に、水ストレス下のイネは、他の植物種より高いアンモニウム吸収能力を示す。アンモニウムを与えた水ストレス状態のイネでは、硝酸塩を与えたよりも高い水吸収率を示す。これによりアンモニウム栄養がイネの水ストレス耐性を高めることが証明されている。しかし水ストレス下での水吸収が窒素形態と関係づけられる生理学的な原因は知られていない。一方、根の構造と形態は一般的に、水と栄養吸収に密接に関連づけられる。カスパリー線、内皮における通過細胞、内皮または外皮のコルク化、通気組織などが、根の水透過性が変化する原因となると考えられる。先行研究ではトウモロコシにおける根の皮層通気組織が乾燥耐性を高めることが証明されている。それは生きている皮層組織が通気組織に変わることで根の呼吸が減少するためである。本研究では、イネの根における通気組織と水吸収が、窒素吸収と水ストレスの両方に関連があるかを調べるために、水ストレス下で異なる形態の窒素を与えたイネにおける根の通気組織と水透過性との関係を解析した。

　イネindica 亜種の2つの栽培品種 (cv. ‘Shanyou 63’およびcv. ‘Yangdao 6’ )を水耕法で育て、硝酸塩またはアンモニウムを与えた。その後ポリエチレングリコール（PEG）を与えて水ストレスを誘発した。本実験では、非水ストレス下において硝酸塩処理またはアンモニウム処理をしたイネと、それに加えてPEGを与えたイネを用いて実験を行った。根通気組織形成率は走査型電子顕微鏡（SEM）で撮影した写真を用いて測定した。水ストレスは通気組織を急激に増加させ、いずれの栽培品種の場合でも、硝酸塩処理下における通気組織形成率はアンモニウム処理下よりも高かった。また根の空隙率は、水ストレス下でのみ有意差がみられ、アンモニウム処理下におけるよりも硝酸塩処理下における方が大きかった。木部液出液速度と、根の水透過性は、水ストレス下において有意差がみられ、アンモニウム処理下と比べ硝酸塩処理下で大きく減少した。また根の水吸収率とアクアポリン活性を測定した。イネに与えた栄養液の2時間の減少量（生重量あたり）で水吸収率（対照区）を測定し、アクアポリン活性はHgCl₂を加えた根の水吸収率と対照区を比較することにより評価した。水吸収率は、水ストレス下で減少し、硝酸塩処理下ではアンモニウム処理下よりも大きく減少していた。HgCl₂を加えたとき、すべての処理のイネにおいて水吸収率は減少し、硝酸塩処理した根は、アンモニウム処理した根よりも水吸収率の減少は低かった。

これらの結果によると、水ストレス状態下での硝酸塩処理はイネの根における皮層の通気組織形成を促進し、その促進は根の放射方向の水吸収を低下させたと考えられる。またアンモニウム処理した根における水輸送には主にHg感受性アクアポリンを通る輸送（シンプラスト輸送）が重要であり、硝酸塩処理した水ストレスのイネにおいてはアポプラストでの水輸送が重要な役割を果たすことが示唆される。アンモニウムを与えた水ストレス下のイネにおいて水透過性が有意に減少しなかったのは、この水輸送経路の違いによるものであると考えられる。

興味を持たれた方は是非ご参加ください。　　　松澤　勇介