2012年前期　第5回　細胞生物学セミナー

日時：6月26日（火）17：00～

場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

Effects of simulated microgravity on male gametophyte

of Prunus, Pyrus, and Brassica species

De Micco, V., Scala, M., Aronne, G.　 (2006)

Protoplasma 228: 121–126

サクラ属、ナシ属、およびアブラナ属の植物の雄性配偶体（花粉）に対する擬似微小重力の影響

宇宙での植物栽培は宇宙での長期間のミッションにおいて必須である。植物の存在は乗組員の心理状態や任務のストレスや孤独状態の緩和に良い影響があるだけでなく、酸素の生成や蒸散による水の循環など乗組員の生命維持のためにも重要である。しかし、宇宙での植物の成長には多くの制約がある。実際に微小重力や放射線のような特異的な要因は宇宙での植物の代謝に影響する。加えて、微小重力は培地における液体分布や気体対流に深い影響があるため、植物の生育に影響を及ぼす。従って、宇宙で植物が生育する能力は微小重力や放射線への耐性に依存すると考えられる。一般的に宇宙で栽培する種や品種の選抜は胞子体（親植物）レベルでの選抜により行われる。しかし、胞子体レベルでの選抜の場合、コストと時間の両方を費やす。一方で、育種においては、雄性配偶体（花粉）レベルでの選抜が行われている。花粉選抜の利用は、特に植物体の生育に時間がかかる木本（植物の大きい個体サイズおよび長い幼若段階のため）で有効である。地球で重力加速度の影響を調べるためにクリノスタットによって実現される擬似微小重力環境を利用することができる。そこで、本研究では、有用な草本種および木本種の花粉発芽と花粉管発達に対する擬似微小重力の影響を調べ、宇宙環境での植物栽培において花粉選抜を用いる可能性を検討した。

花粉はモモ（Prunus persica）、セイヨウミザクラ（P.avium）、セイヨウスモモ（P. domestica）、セイヨウナシ（Pyrus communis）、およびカブ（Brassica rapa）の開花した花から集めた。花粉の生存率はフルオレセイン二酢酸を用いた蛍光色素反応によって評価した。花粉はそれぞれの種に適した成長培地をペトリ皿に入れ、1G環境もしくは、クリノスタット上で培養した。室温で一日培養した後、試料を凍結もしくは、5：5：90の割合で40％ホルムアルデヒド、氷酢酸、50％エタノールを混合した固定液で固定した。花粉の発芽の割合と花粉管の成長方向を光学顕微鏡下で観察した。さらに、発芽した花粉を含んでいる寒天の薄片をペトリ皿から切り出し、核の存在と分布を確認するために発芽した花粉を4,6-ジアミジド-2-フェニルインドールで染色し、落射蛍光顕微鏡下で観察した。デンプンの存在と分布はIKI溶液で染色した後、光学顕微鏡下で観察した。カロース栓の存在、大きさ、および形態はアニリンブルーで染色した後、落射蛍光顕微鏡下で観察した。実験は二年間でそれぞれの種で10回反復した。その結果、花粉発芽は擬似微小重力と1Gの間では発芽時間に大きな違いは見られなかった。花粉培養を擬似微小重力下で行った場合、発芽率は増加もしくは減少のいずれかの傾向を示した。減少傾向はモモ、セイヨウミザクラ、セイヨウスモモ、セイヨウナシで見られ、一方、増加傾向はカブで見られた。擬似微小重力下では多くの場合、精細胞の移動はカロース栓によって妨害されたため、花粉管の先端に向かって移動することができなかった。

これらの結果から、擬似微小重力下での花粉の反応は種に依存し、花粉レベルでの選抜は宇宙の閉鎖生態系で育てられる種や品種の選抜に適応しうることが示唆された。また、擬似微小重力下における花粉発芽と花粉管成長は調べたすべての種で起きることが示された。しかし、発芽率はクリノスタットの回転によって影響されなかったにもかかわらず、多くの花粉管はうまく形成されず、これらは受精することができないと考えられた。これらの結果から、擬似微小重力下では、花粉管成長における多数の側面が影響を受けることも示唆された。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　興味を持たれた方は是非ご参加ください。　　　小原　和樹