2012年後期　第6回生物学セミナー

日時：7月3日　17：00～

場所：総合研究棟6階　クリエーションルーム

Endodermal cell–cell contact is required for the spatial control of Casparian band development in Arabidopsis thaliana

Martinka, M., Dolan, L., Pernas, M., Abe, J., Lux, A.(2012)

Ann Bot. 110:1093-1103

シロイヌナズナにおけるカスパリー線形成の空間的制御には内皮細胞間の接触が必要である。

内皮細胞は根における物質輸送においていくつかの重要な役割を担っている。内皮細胞の細胞膜は水の輸送体であるアクアポリンを多く含んでおり、外側の皮層細胞と内鞘の間の水の輸送を制御している。維管束組織と比べると高い動水抵抗性をもつことと放射方向への水透過性が低いことにより、内皮は中心柱における水圧の維持の役割を担っている。また中心柱からの化合物の漏出を防止し、イオンの拡散と輸送の制御を行う。内皮細胞の液胞はシロイヌナズナの胚での鉄の貯蔵コンパートメントである。内皮は細菌や真菌などの病原微生物の攻撃を防ぐバリアを作り、維管束への菌根・菌糸の侵入を防ぐバリアを作る可能性も先行研究から示唆されている。また力学的に根を支持し、いくつかの種においては内皮が根全体の弾力性に影響を与えることが示されている。維管束植物の内皮細胞は3つの発達のステージのそれぞれの段階を経て、第一段階、第二段階または第三段階の内皮に発達する。

第一段階では、一次細胞壁に電子密度の高い物質が蓄積し、カスパリー線がanticlinal wall （隣り合う内皮細胞の間の細胞壁）の内面に沿って連続的に形成される。いくつかの種ではカスパリー線の化学組成が知られている。たとえば、クンシランのカスパリー線はリグニンとその約1/10以下のスベリンに加え、アラビノース・ヒドロキシプロリン・プロリン・セリン・リシン・他のアミノ酸で構成される。シロイヌナズナにおけるカスパリー線の正確な化学組成は、化学分析のために細胞壁成分を十分に抽出することが困難なため不明である。内皮が第一段階でのカスパリー線の発達を終了していないことはまれであり、ほとんどすべての種で第二段階の内皮になりスベリン層が発達する。第二段階では、一次細胞壁の内面にスベリン層が蓄積することが特徴で、カスパリー線よりも効率の良いアポプラストバリアとなる。スベリン層はカスパリー線と性質的に類似した化学組成を有しているが、リグニンとスベリンの含量が逆転する。第三段階では内皮の発達が進行し、少量のタンパク質や、スベリン化されていない細胞壁物質が沈着し、いくつかの植物種では厚く木質化する。

微細構造レベルでの内皮におけるバリアの発達の解明は、シロイヌナズナでは行われていない。本研究では野生型シロイヌナズナの一次根での内皮におけるアポプラストバリアの発達を解明することを目的とした。野生型でのアポプラストバリアの発達を、内皮が欠損した変異体shrとscrにおいて比較した。野生型では、根冠との接合部から約1,600 µmの位置でカスパリー線が形成され始め、発達途中の側根原基領域における根端から7,000～8,000 µmの位置において内側の一次細胞壁でスベリン層が出現した。内皮細胞と皮層細胞が同一化している変異体scr-3の根では、この同一化した皮層細胞と内鞘細胞が隣接している接合部でカスパリー線のような物質が異所的に蓄積していた。未発達の内皮を持つ変異体shrの根では、中心柱の細胞の中葉においてカスパリー線のような物質がパッチ状に沈着していた。これらのことから、SHRまたはSCRの機能の喪失がアポプラストバリアの発達において形態および位置の変化につながることが示唆された。

興味をもたれた方は、ぜひご参加ください

荒内亮輔