2013年度後期　第3回　細胞生物学セミナー

日時：11月5日 (火)　17:00～

場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

Cell wall assembly and intracellular trafficking in plant cells are directly affected by changes in the

magnitude of gravitational acceleration

Chebli Y., Pujol L., Shojaeifard A., Brouwer I., van Loon J. J. W. A., Geitmann A. (2013)

PLoS ONE 8 (3): e58246

植物細胞における細胞壁の構成と細胞内輸送は重力加速度の規模の変化により直接影響する。

　植物にとって重力は唯一持続性のあるストレスであり、それに順応するため植物は自分にかかる重力の大きさと方向を感じ取ることができる。重力の方向については平衡石と呼ばれるオルガネラを備える特別な細胞が関わることが知られている。しかし、多くの植物細胞は平衡石を持たないにもかかわらず、重力加速度の変化に反応する。そこでそのような特殊化をしていない植物細胞の代謝と細胞機能に対する重力の影響を理解するために、急速に生長し平衡石を持たず、重力屈性を示さない花粉管における重力の影響の研究を行った。

欧州宇宙機関 (ESA) の欧州宇宙技術研究センターにおいて、ツバキ (Camellia japonica) の花粉管を、クリノスタットを用いた疑似微小重力環境もしくは大型セントリヒュージを用いた過重力環境に曝し、花粉管の生長、細胞内輸送および細胞壁の構成成分に対する重力の影響を調査した。細胞壁の構成成分であるペクチン、セルロースおよびカロースの空間分布の観察を行うために免疫蛍光標識を行い、共焦点顕微鏡下で観察した。また小胞輸送に対する重力の影響を調べるために、大型セントリヒュージに搭載した落射蛍光顕微鏡下で、生きている細胞の観察を行った。

ツバキの花粉管の生長に関しては、過重力 (5～20 G) および疑似微小重力下において花粉の発芽率と花粉管の直径および生長速度は1 Gの対照実験と比較して有意な違いが見られ、疑似微小重力下においては花粉管の表面生長にも有意な差が見られた。花粉管の直径は過重力下において用量依存的に増加した。花粉管における細胞壁の構成成分の空間分布に関しては、ペクチンは大きな違いが見られなかった。セルロースは1 G下では花粉管の頂端部から欠損していたが、過重力と疑似微小重力下においては頂端部でも見られ、カロースは過重力下においては1 G下より先端に近い位置から見られ、疑似微小重力ではカロースの層が滑らかでなく、不規則な斑が見られるという結果が得られた。このカロース分布の変化は重力加速度の大きさに依存した。また、過重力処理した花粉管を遠心機から取り出し、固定と免疫蛍光標識する前に1 Gで生育させるとわずか5分でセルロースとカロースの局在は1 Gと同様に回復した。大型セントリヒュージに搭載した落射蛍光顕微鏡下において、蛍光色素FM1-43の取り込みを指標とし小胞輸送を観察した。1 Gで生育した花粉管では先端で小胞分布が逆円錐体の領域に局在する傾向が見られた。この逆円錐体領域の正射影面積、および個々の細胞内での、先端から離れた位置における細胞質領域に対する逆円錐体領域の蛍光強度の比率は、過重力条件下では減少するという結果が得られた。

花粉管は、重力の大きさにより変化した力学的な負荷を補償するために細胞壁の構成を修正するということが示唆された。細胞壁の変化に対する重力の効果が数分以内で可逆的なものであったことは、花粉管がストレス状態の変化に急速に順応できるということを示唆している。

興味を持たれた方は是非ご参加ください　　後藤圭太