2013年度後期 第5回 細胞生物学セミナー

日時:1119日(火)18:00~

場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Differential gene expression patterns in white spruce newly formed tissue

on board the International Space Station

Beaulieu, J., Giguère, I., Deslauriers, M., Boyle, B., MacKay, J. (2013)

Adv. Space Res. 52: 760–772

国際宇宙ステーション内において新しく形成されたホワイトスプルースの組織における

異なる遺伝子発現のパターン

 

 植物は発達段階において様々な環境条件に影響されており、重力は植物の一生において不変の数少ない環境条件の1つである。植物生長に対する重力の影響を研究する場合、生長に影響する他の因子を調節すると同時に重力の影響を取り除く実験を計画するのは非常に困難である。これまでに微小重力環境での実験は行われてきたが、長期的な重力の影響の研究を可能にしたのは国際宇宙ステーション (ISS) のみである。植物の重力応答は細胞の構造変化や器官の形態的変化のみに限らず、シロイヌナズナ等において遺伝子レベルでも確認されている。しかし、木本植物の重力応答に関する実験は極めて少なく、宇宙環境、特に微小重力環境が樹木にどのように影響するかは未だ明らかになっていない。本実験では、地上またはISSで生育したホワイトスプルース(Picea glauca (Moench) Voss)のシュートから単離したRNAを用いて、遺伝子発現の差を調べ、重力と宇宙飛行環境の影響を検証することを目的とした。

 体細胞不定胚形成 (SE) により得られた胚から育成した1年齢のホワイトスプルースはケネディ宇宙センター Space Life Sciences Laboratory へと輸送された。このSE植物のうち、半分はスペースシャトル・ディスカバリーを用いたSTS-131ミッションの際にISSへと輸送され、宇宙実験区とし、残りの半分は重力以外の環境条件が等しくなるように調整し、地上対照区とした。両実験区の試料は30日間にわたり生育された後、シュート先端部を切り取りRNAを安定化させるRNA laterに浸した。宇宙からの試料の帰還後、各実験区の試料を液体窒素により凍結粉砕してRNAを抽出し、その品質を調べた。試料から得られたRNAは、収量が全体的に低い傾向があり、また部分的に分解されていたため、マイクロアレイを用いたトランスクリプトームの解析を行うことはできなかった。そこで被子植物を用いた複数の先行研究において、宇宙環境、過重力、疑似微小重力環境などの異なる重力環境で異なる発現が見られた27遺伝子を選び、これらについて定量的PCR (RT-qPCR) による転写産物量の定量を行った。

 その結果、27遺伝子の内およそ3分の2が微小重力条件下では地上条件下よりも発現上昇の傾向を示しており、その内の3遺伝子において有意な差が見られた。この3遺伝子は、シロイヌナズナのelongation factor EF1B/ribosomal protein S6をコードする遺伝子と相同なGQ00411_O06、シロイヌナズナの分子シャペロンに関わるHsp70/Hsp90 organizing proteinをコードする遺伝子と相同なGQ03707_J13、シロイヌナズナや酵母のZPR1 zinc finger domain proteinをコードする遺伝子と相同なGQ03719_P07である。これらは細胞増殖や生長、ストレス応答などに関連していると推測される遺伝子であり、それらの発現上昇は苗木の生長に影響する可能性がある。

 

興味を持たれた方は、是非ご参加ください。   村本雅樹