2013年度後期　第6回　細胞生物学セミナー

日時：11月26日（火）17:00~

場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

A gradient of auxin and auxin-dependent transcription precedes tropic growth responses

Esmon, C. A., Tinsley, A. G., Ljung, K., Sandberg, G., Hearne, L. B., Liscum, E. (2006)

Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 103 : 236-241

オーキシンの勾配とオーキシン依存型転写は屈性反応に先立って起こる

　植物には、光、重力、接触など外部からの物理的刺激を感知し、環境の変化に適応する能力がある。植物の茎や胚軸、根は、これらの外部刺激により正または負の屈性反応を示すことが知られている。Cholodny-Went説において、こうした植物の屈性反応は、植物ホルモンであるオーキシンの勾配が一方向からの光刺激を受けた部位と受けてない部位とで差が出るため、光刺激を受けてない部位の細胞伸長が促進されて起こることが提唱された。シロイヌナズナにおける先行研究において、オーキシンに制御される転写活性化因子NPH4/ARF7が欠損したnph4変異体で屈性反応が見られなくなることが実証され、このことからオーキシン勾配は特定の遺伝子による制御を受け、屈性反応を引き起こすことが示唆された。しかし、これらの屈性刺激によって誘導される遺伝子（tropic stimulus-induced gene: TSI遺伝子）は特定されておらず、TSI遺伝子の発現とオーキシン勾配の関係性については明らかになっていない。また、TSI遺伝子を特定するためには、屈性反応における伸長部位と非伸長部位の遺伝子発現の違いを調べる必要がある。そこで、本研究ではシロイヌナズナよりもサイズが大きいため組織の分離が容易であり、シロイヌナズナと屈性反応の性質が類似しているBrassica oleraceaを用いた。そして、光刺激と重力刺激によって発現が誘導されるTSI遺伝子の特定と、TSI遺伝子のオーキシンに対する応答性または、TSI遺伝子と屈性反応の関係についての解明を目的とした。

　B. oleraceaの胚軸の一側面に光刺激を2時間与え（光刺激処理区）、光を当てた側面（lit flank）とその反対側面（shaded flank）を分離し、また、胚軸を重力方向に対し垂直に2時間置き（重力刺激処理区）、胚軸の上側の側面（top flank）と下側の側面（bottom flank）を分離して、それぞれのオーキシン含有量を測定した。その結果、オーキシン含有量は、光刺激処理区ではshaded flank、重力刺激処理区ではbottom flankにおいてその反対側の側面よりも多かった。また、TSI遺伝子を特定するためにマイクロアレイ実験によって、それぞれの処理区において両側面間の遺伝子発現の違いを調べたところ、TSI遺伝子と考えられるEXPA1, EXPA8, SKS1, GH3.5, SAUR50, bHLH134, HAT2, GH3.6/DFL1の8遺伝子が、光刺激処理区におけるshaded flankと、重力刺激処理区におけるbottom flankに共通してより多く発現した。しかし、SKS1では再現性を得ることができなかったため以下の実験では除外した。そして、半定量RT-PCRにより、マイクロアレイ実験の結果の検証と、オーキシン輸送阻害剤である1-ナフチルフタラミン酸(NPA)処理をした試料に屈性刺激を与えそれぞれのTSI遺伝子の発現量の測定を行った。その結果、マイクロアレイ実験と同様に7遺伝子の発現量の増加が見られ、NPA処理した両実験区の胚軸では、両側面ともTSI遺伝子の発現量が低かった。また、TSI遺伝子の発現とオーキシン勾配の関係を調べるため、胚軸の片方の側面にオーキシン処理を行い、処理側面と非処理側面のTSI遺伝子の発現量を比較したところ、EXPA1以外のTSI遺伝子の発現量が処理側面で高くなる傾向が見られた。次に、7個のTSI遺伝子の発現とNPH4/ARF7の関係を明らかにするために、野生型シロイヌナズナ（Arabidopsis thaliana (L.) Heynh. ecotype Columbia）とnph4/arf7無発現変異体であるnph4-1の胚軸を使用し、リアルタイムPCRによってそれぞれのTSI遺伝子の発現量を測定した。その結果、bHLH134以外の6個の遺伝子の発現量が変異体に比べて野生型の方で有意に多かった。

　以上の結果は、屈性反応にオーキシン勾配が関わっているというCholodny-Went説を支持すると言える。また、ほとんどのTSI遺伝子の発現はオーキシンによって誘導され、その発現誘導にはNPH4/ARF7が関わっていることが示唆された。

興味を持たれた方は是非ご参加ください。　　　　片山瑞紀