2013年度前期　第7回　細胞生物学セミナー

日時：7月2日（火）17:00～　　

場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

Root suberin forms an extracellular barrier that affects water relations and mineral nutrition in Arabidopsis

Baxter, I., Hosmani, P. S., Rus, A., Lahner., B, Borevitz, J. O., Muthukumar, B.

Mickelbart, M. V., Schreiber, L., Franke, R. B., Salt, D. E.（2009）

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 PLoS Genet. 5 : e1000492　　　　　　　　　　　　　　

シロイヌナズナにおいて根のスベリンは水および無機養分の吸収に影響する細胞外バリアを形成する。

　根は土壌中から水と必要な無機栄養の両方を取り込むために特殊化された器官である。根は水と無機イオンの取り込みを調節し、シュートへの長距離輸送における中心的な役割をもつ維管束系に対する水・溶質の移動も制御している。内皮と外皮をもつトウモロコシや内皮のみをもつソラマメなどを用いた先行研究では根のスベリン量の変化が蛍光色素のアポプラスト輸送の効率に関与している結果が得られたが、現在、植物の根の細胞外やアポプラストでの水や溶質の輸送を制限するバリアを形成機能に根のスベリンが影響を与える直接の遺伝学的証拠は存在しない。そこで本研究ではシロイヌナズナ（Arabidopsis thaliana）を用いて野生型Col-0と根のスベリンの脂肪性単量体成分が増加しているenhanced suberin1（esb1）変異体を形態学的・遺伝学的な解析、およびイオノーム（ある生物に含まれる全ての無機養分と微量元素の組成）の主成分分析により比較し、シロイヌナズナの根のスベリン沈着の変化と、シュートへの溶質蓄積および体内の水移動との関係を調べた。

　esb1の根におけるスベリンの脂肪性成分の単量体増加の原因遺伝子を特定するため、bulk segregant analysisによる大まかなマッピングを行った。具体的にはesb1（Col-0）とLer-0間の異系交配によるF2集団175個体のイオノームを調べ、esb1-1および野生型Col-0それぞれに似たイオノーム（前者はCaとBの含量が低い）を示す集団をプールし、それぞれからゲノムDNAを抽出し、AffymetrixATH1マイクロアレイにハイブリダイズさせた。Ler-0とCol-0の間でハイブリダイゼーションの強さの違いを示すブローブ遺伝子マーカー（1塩基多型とプロセシング多型を含むSingle Feature Polymophism SFP）とし、esb1-1のイオノーム表現型を示す遺伝子型が2番染色体の11Mbを中心とする位置に座乗することを確認した。次にDNAtタイリングアレイを行うためにesb1-1と野生型Col-0のDNAゲノムタイリングアレイAffymetrix ATTILE1.0Rにハイブリダイズさせて、2番染色体の9-13Mbの間にある19のプローブにおけるハイブリダイゼーションを比較して大きな差を示す領域を特定し、詳細な塩基配列を決定したところ、esb1-1はAt2g28670遺伝子を欠失していることが示された。次に短日条件下で5週間生育したCol-0、esb1-1およびesb1-2におけるAt2g28670の発現を定量的RT-PCR法により比較したところ、Col-0の根においてはAt2g28670が強く発現していたがesb1-1及びesb1-2では発現が失われていた。また両変異体ではスベリンの脂肪性単量体の含量が増加していた。根組織をスベリンの脂肪性成分を染色するFluorol Yellowで染色するとesb1-1とesb1-2の根では染色の増加がみられた。以上の結果からAt2g28670の機能欠失がスベリンの脂肪性単量体の含有量を増加させることが裏付けられた。また5週齢の試料のシュートにおけるイオノーム主成分分析においてもesb1-1とesb1-2はCol-0と異なるイオノーム形質が示した。そこで根の変異が葉イオノーム形質に与える影響を調べるため、5週齢の各遺伝子型の接ぎ穂を異なる遺伝子型の台木に移植する相互移植実験を行ったところ、接ぎ穂の葉イオノーム形質が台木の遺伝子型に依存するという結果が得られた。次に根のスベリンの脂肪性単量体の増加とシュートへの水移動および土壌への水損失を減少させるバリア機能の強化との関係を調べるため、5週齢のCol-0とesb1の蒸散速度・気孔指数（全表皮細胞と孔辺細胞の比）・気孔幅を比較した。蒸散速度と気孔幅はesb1-1およびesb1-2においてCol-0よりも減少がみられたが、気孔指数は変化が見られなかった。これより蒸散の減少が単なる気孔密度の変化ではないことが示唆された。また、灌水中断後3週間土壌で生育した相互移植標本を用いてしおれ度を比較したところ、Col-0の台木を用いた標本は11日以内に全てしおれたがesb1の台木を用いた標本ではしおれ抵抗性の増強がみられた。以上から変異体ではスベリンの脂肪性単量体が増加したことによりバリア機能が強化し、日中の蒸散速度が減少し、栄養生長期間の水使用効率が増加することが明らかになった。シュートのイオノーム主成分分析によって、変異体における根のスベリンと水輸送の変化はシュートにおいてCa・Mn・Znの蓄積を減少させ、Na・S・As・Se・Moの蓄積を増加させることが示唆された。このことは根におけるスベリン蓄積が水と無機イオンの取り込みと葉への輸送調節に決定的な役割をもつという直接的な遺伝学的証拠であることを示唆している。また変異体の葉においてCa・Mn・Znの蓄積の変化が見られたことはこれらの元素の根における放射方向の輸送の大部分がアポプラストで起こっている重要な証拠である。

興味をもたれた方は是非御参加ください。　　　　　松本 惇