2013年度前期 第2回 細胞生物学セミナー

日時:521() 17:00

場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Influence of microgravity on ultrastructure and storage reserves in seed of Brassica rapa L.

 Kuang, A., Xiao, Y., Mcclure, G., Musgrave, M., E. (2000)

Ann. Bot. 85: 851-859

アブラナの種子内の微細構造と貯蔵物質における微小重力の影響

 

 40年前に微小重力下における生物実験が始まって以来、宇宙飛行において種子生産を成功させることはそのゴールの一つである。筆者らのこれまでの短期間の宇宙実験により、生殖発生、受粉、胚形成の子葉が巻き込まれる段階は微小重力下でも正常に進行することが示されたが、長期の実験により後期の種子発生と成熟における潜在的役割を明らかにすることは課題として残った。そこで本研究ではシロイヌナズナに近いアブラナを使用した種子発達に関する実験として、Mir宇宙ステーションでの種子発生の2つの長期実験および、齢を合わせた長角果を用いた16日のスペースシャトル実験 (STS-87) で得られた、発達した種子の微細構造レベルでの観察をはじめて行った。

Mirにおける実験では、種子はSTS-84の発射の前の1週間乾燥状態におき、Svet温室の下部モジュールがMirステーションに送られてから給湿される前に植えられた。その後発芽し、15日で花芽形成をした。飛行後は解析まで乾燥剤と共に冷蔵庫に保存された。Mir実験で得られた乾燥種子は吸水後切り分け、またSTS-87 の実験で採れた新鮮な未成熟な種子はそのまま切り分けた後に固定され、内側の子葉は細胞数の定量化のために用い、外側の子葉は顕微鏡観察による貯蔵物質と超微細構造の解析のために固定された。

解析の結果、Mir宇宙ステーションで生産された成熟種子は地上対照と比較して小さく、重量も軽く、子葉の細胞数は20%以下しか含んでいなかった。種子の大きさの差異は子葉細胞数の差異のためであることが示唆された。成熟した子葉内における貯蔵物質の細胞化学的観察により宇宙飛行で得られた種子においてはデンプンが保持されていた一方で、地上対照種子では主な貯蔵物質はタンパク質と脂質であった。宇宙で生産された成熟した子葉内におけるタンパク粒は地上対照より44%少なかった。またMir実験の成熟種子の細胞の微細構造は似通っていたが、タンパク粒に含まれるグロボイド結晶のサイズのバリエーションが地上対照と比較して宇宙試料では大きいという結果が得られた。受粉後15日目の、宇宙で形成された成熟胚の子葉細胞には多くのデンプン粒があり、タンパク粒は欠乏していた。同じ段階の地上対照の種子においては、タンパク粒はすでに形成されていてデンプン粒はわずかであった。

宇宙飛行中に撮影した画像を調べると、アブラナの長角果における成熟のパターンとしては通常は均一に全体の緑色が減少するのに対し、微小重力においては緑色の減少が求基的に起こった。筆者らは別の報告において、宇宙で生産された胚の生長力が減少したということを示しており、このことは今回観察された微小重力環境下における子葉細胞内の貯蔵物質の減少と重量の有意な減少によるものであることが示唆された。重力が植物の生活環内のいずれかの段階で絶対的に要求されるというわけではないが、アブラナの種子の質は微小重力内の発生によって損なわれることが示唆された。

興味を持たれた方は、是非ご参加ください。     後藤 圭太