2013年度前期　第5回　細胞生物学セミナー

日時：6月11日（火）17:00~

場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

Gravity amplifies and microgravity decreases circumnutations in Arabidopsis thaliana stems: results from a space experiment

Johnsson, A., Solheim, B. G. B., Iversen, T.-H. (2009)

New Phytol. 182：621-629

シロイヌナズナの回旋運動は重力により増幅し微小重力により減少する

　陸上植物は陸上で生活していく上で、光、水、重力などの環境要因を感受し利用することで自身の姿勢を維持する仕組みを獲得した。それらの要因の中で重力の影響を受ける植物成長の過程を重力形態形成といい、重力屈性反応や回旋運動などがある。回旋運動とは、茎や根の頂端部が連続的に回転しながら伸長する現象で、ほとんどの植物に見られる。Darwin (1880) は、この植物の回旋運動について研究し、回旋運動は内在的な要因に起因するものであり、重力などの環境因子は回旋運動を修正する効果を持つと主張した。ヒマワリの胚軸を用いた先行研究では、無重力下において回旋運動の頻度と振幅が減少し、運動時間が短くなったことから、Darwinの考えが支持された。しかし、重力屈性反応と細胞における周期性を持つ過程との関係性についての詳細な研究は、胚軸だけでなく植物の他の器官においても行われていない。そこで筆者らは、シロイヌナズナの主軸および側軸の花茎の回旋運動における重力の重要性を実証することを目的として、国際宇宙ステーション（ISS）における微小重力下および地上重力下での回旋運動の比較を行った。

　野生型シロイヌナズナ（Arabidopsis thaliana (L.) Heynh. ecotype Columbia）を実験容器（EC）内で栽培した。軌道上対照区としては、実験容器はローターに設置し、ローターを回転させ遠心力を与えることで、種子の位置で1 G 環境下（回転中心に向かい容器の中程では0.8 G）となるように設定し、微小重力環境下および軌道上の0.8 G環境下において重力屈性反応と回旋運動を比較した。ローター内の明暗条件は、明期16時間、暗期8時間のサイクルとし、ローター内に2つの回転式カメラを設置することで4つの容器の画像を記録し、花茎の動きを解析した。また、筆者らが以前に行った、地上1 G下での側軸の回旋運動を記録したデータとも比較した。

　その結果、微小重力下では地上対照のような回旋運動は見られなかった。また、0.8 G下において、側軸では明・暗期で継続的に回旋運動が観察され、その回転方向は時計回りと反時計回りのいずれも見られたが、微小重力下では明・暗期いずれにおいても微小な振幅運動をしながら、斜行するのみであった。地上対照においても側軸の振幅運動は見られたが、微小重力下での振幅の周期は、地上対照に比べて短時間だった。側軸の明・暗期における振幅の周期を比較すると、明期より暗期の方が長時間であることがわかった。これらの結果より、シロイヌナズナの回旋運動および振幅運動は重力に依存する傾向があることが明らかになった。

回旋運動を行うためには重力感知が必要であること、微小重力環境下では重力感知できなかったために回旋運動の減少が生じたということ、また、明・暗期での振幅時間の違いは概日性によるものであることが示唆された。これらのメカニズムの解析と、どの程度の重力で回旋運動を促進するかの検証が今後の課題である。

興味を持たれた方は、是非ご参加ください。　　　片山瑞紀