2013年度前期　第6回　細胞生物学セミナー

日時：6月18日（火）　17：00～

場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

Enhanced formation of aerenchyma and induction of a barrier to radial oxygen loss in adventitious roots of Zea nicaraguensis contribute to its waterlogging tolerance as compared with maize (Zea mays ssp. mays)

Abiko, T., Kotula, L., Shiono, K., Malik, I. A., Colmer, D. T., Nakazono, M. (2012)

Plant Cell Environ. 35:1618-1630

Zea nicaraguensisの不定根においては通気組織の増強と放射方向の酸素漏出（ROL）バリア

の形成誘導がトウモロコシと比較してよりおこることで湛水耐性が高まる

　湛水とは土壌が水に浸っている状態のことで、多くの畑作物の成長に影響を与える主な環境ストレスである。湛水環境では酸素欠乏により、植物の根は活力を失ってしまう。イネやコムギなどの湿地種は湛水環境に適応するため、通気組織と酸素漏出（radial oxygen loss＝ROL）バリアを形成する。通気組織は、細胞死によって形成される空隙で、湛水環境下の根に酸素を供給する。ROLバリアは、根の通気組織を通じて放射方向に酸素が漏出していく現象を防ぐために、根の表層側の細胞層において嫌気条件下で誘導的に形成されるバリアのことである。トウモロコシ(Zea mays ssp. mays)などの陸地種はROLバリアがほとんど形成されないが、トウモロコシの近縁種であるテオシントと呼ばれるグループに属する種は、河口付近で自生しており湛水土壌で成長する。その中でも、比較的最近発見されたZea nicaraguensis（Z. nicaraguensis）は湛水環境下で著しい成長を示すことから、テオシントはトウモロコシの耐性形質のための重要な遺伝資源であると考えられる。本研究は、Z. nicaraguensisの湛水耐性についてより詳細に知るために、根におけるROLバリア形成の位置、ROLとリグニンおよびスベリンの沈着パターンの関係、通気組織形成と根の伸長との関係について、Z.nicaraguensisとトウモロコシの比較を行った。

４日齢のZ. nicaraguensisとトウモロコシの苗を土壌実験と培養溶液実験で使用した。土壌実験では、それぞれの苗を湛水環境（水位：土壌表面より約20mm）または好気的な土壌を含むポットに移して生育した。培養溶液実験では、それぞれの苗を0.1％（w/v）寒天を含む、通気した溶液または脱酸素化した溶液で生育した。そして、それぞれの実験で生育した苗において形態計測を行った。また、各溶液で生育した苗の不定根における10mm毎の区間から得られた横断切片において、通気組織の顕微鏡観察を行った。脱酸素化した溶液での不定根におけるROLは、白銀酸素電極を使用して測定した。最後に、根の横断面のスベリンとリグニン、スベリンラメラ、カスパリー線をそれぞれ染色し、落射蛍光顕微鏡で観察した。

　その結果、土壌実験と培養溶液実験において、湛水条件ではトウモロコシの成長が著しく阻害され、Z. nicaraguensisは両方の処理において同様に成長した。好気的条件でのトウモロコシにおいてはわずかに通気組織が形成され、湛水条件においてはより多くの形成が誘導された。対照的にZ. nicaraguensisにおいては、好気的条件で通気組織が構成的に広範囲に形成され、湛水条件ではさらに通気組織を根端近くまで誘導的に形成された。培養溶液実験において、脱酸素溶液で成長した場合、トウモロコシの不定根はZ. nicaraguensisの約半分の長さであり、ROL量はトウモロコシにおいては非常に高く、不定根全体に渡ってROLが一様に高かった。Z. nicaraguensisのROL量は根端より基部で著しく減少した。根の横断面で観察されたスベリンラメラは、通気した溶液において、トウモロコシでは根端から30 mmより上、Z. nicaraguensisでは根端から70 mmの位置で観察された。リグニンは両方の溶液で観察されなかった。脱酸素溶液においてトウモロコシではスベリンの沈着が遅れたが、Z. nicaraguensisではスベリンラメラの発達が著しく促進された。リグニンはZ. nicaraguensisの根端から10-80 mmの表皮細胞で観察された。

Z. nicaraguensisは湛水条件下で不定根の基部におけるROLに対する堅固なバリアを形成したが、トウモロコシではわずかに形成されただけである。通気組織はZ. nicaraguensisにおいてトウモロコシよりも形成が顕著であった。また、スベリン化によりROLの抵抗性が増加することが示唆された。これらのことから、Z. nicaraguensis はトウモロコシよりも高い湛水耐性をもつといえる。そしてZ. nicaraguensisからトウモロコシへのROLバリアおよび通気組織形成に関わる遺伝子移入は、トウモロコシでの湛水耐性の改善のために有望な戦略であると考えられる。

興味を持たれた方は是非ご参加ください。　　堀田彩織