2014年度後期 第6回 細胞生物学セミナー(唐原研)

日時・場所:1118日(火)17:00~  総合研究棟6 階クリエーションルーム

RCN1/OsABCG5, an ATP-binding cassette (ABC) transporter, is required for hypodermal suberization of roots in rice (Oryza sativa)

Shiono, K., Ando, M., Nishiuchi, S., Takahashi, H., Watanabe, K., Nakamura, M.,Matsuo, Y., Yasuno, N.,

Yamanouchi, U., Fujimoto, M., Takanashi, H., Ranathunge, K., Franke, B. R., Shitan, N., Nishizawa, K. N., Takamure, I., Yano, M., Tsutsumi, N., Schreiber, L., Yazaki, K., Nakazono, M ., Kato, K. (2014)

Plant J. 80: 40-51

ABC輸送体であるRCN1/OsABCG5はイネの根における下皮のスベリン化のために必要である。

 

スベリンは脂肪族と芳香族の化合物から構成される複雑な重合体である。イネ(Oryza sativa)を含めた多くの植物の根では、下皮や内皮の細胞壁がスベリン化することでカスパリー線やスベリン層が形成される。そしてこれらは水分やイオンの流れを制限することや病原体から植物を保護する役割を果たす。また先行研究によって、シロイヌナズナのABC輸送体のサブファミリーであるハーフサイズのABCG輸送体(WBC/WHITEサブグループ)のタンパク質がスベリンなどの脂質の前駆体輸送に関与していることが示唆された。しかしシロイヌナズナの内皮におけるスベリンモノマー形成に関する遺伝子は同定されていたが、イネの根などに存在する下皮においてスベリンがアポプラスト輸送バリアを形成するという遺伝学的な根拠は今までに示されていなかった。そこで本研究では、イネにおける分げつの減少を示す変異体rcn1reduced culm number 1)の原因遺伝子であり、ABC輸送体のWBC/WHITEサブグループのタンパク質をコードするRCN1/ OsABCG5と、下皮のスベリン化およびアポプラストバリア機能との関係について調査した。

 実験にはイネの2つの品種(Oryza sativa L. cv. Akamurocv. Shiokari)の野生型と変異体rcn1-1rcn1-2を用いた。植物は9日間よく排水した土壌で生育した後に湛水させた土壌または良く排水した土壌でさらに5週間生育するか、もしくは栄養液中において通気条件下で9日間生育した後に、擬似的な湛水土壌としての0.1 %w/v)寒天を含む脱酸素化した栄養液(淀み条件)または通気条件下でさらに14日間生育させた。rcn1変異体は湛水させた土壌において根を100 mm以上長く生長させることが出来ず、根が柔軟性をもたないことが明らかとなった。RCN1/OsABCG5の発現量は、通気条件と比較して、淀み条件で生育した野生型イネの根で増加した。さらにレーザーマイクロダイセクション法により根の横断切片を3つの部位に分けて、各部位におけるこの遺伝子の発現量を調べたところ、特に中心柱(CC)と外側部分(OPR)において転写レベルが増加していた。加えてRCN1/OsABCG5 pro::GFP:GUSまたはRCN1/OsABCG5 pro::GFP: RCN1/OsABCG5 ORF:NOS terを導入した野生型において、GUS活性またはGFP局在の観察を行った。その結果、RCN1/OsABCG5 pro-GUSの活性は下皮および内皮に、またGFP-RCN1/ OsABCG5は下皮の細胞膜に局在が見られた。またカスパリー線またはスベリン層を、それぞれベルベリンおよびアニリンブルーまたはフルオールイエローで染色した後に顕微鏡観察を行ったところ、淀み条件下において野生型の根の下皮におけるスベリン化が見られたが、rcn1変異体では見られなかった。淀み条件下で生育したイネにおけるアポプラストトレーサーを用いた浸透テストによるアポプラストバリア機能の評価では、淀み条件下において野生型の根では下皮より内側への放射方向のトレーサーの浸透が阻止されたが、rcn1変異体では阻止されず、rcn1変異体におけるアポプラストバリア機能が損なわれていたことが示された。ガスクロマトグラフィー質量分析によるスベリンの定量的分析において、野生型、変異体ともにCCOPRにおいてスベリンが検出された。淀み条件下において、変異体ではC 28C 30の脂肪酸もしくはω-OH脂肪酸から生じる脂肪酸スベリンモノマーの含量が野生型と比べて有意に低くなった。

以上の結果より、RCN1/OsABCG5がイネの根における下皮のスベリン化のために必要であり、スベリンの主要構成要素の輸送に関与し、アポプラストバリア機能に寄与することが示唆された。

興味を持たれた方はご参加ください。 田中美樹