2014年度後期 第3回 細胞生物学セミナー(唐原研)

日時:1021日(火) 1700~

場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Stutte, G. W., Monje, O., Hatfield,. R. D., Paul,. A. –L., Ferl, J. R., Simone,. C. G.

Planta2006224:1038-1049

Microgravity effects on leaf morphology, cell structure,carbon metabolism

and mRNAexpression of dwarf wheat

微小重力が矮性コムギの葉の形態と細胞の構造、炭素代謝、mRNAにもたらす影響

 

長期間のスペースミッションにおける生命維持システムの基礎として、大気を再生し、水を精製し、食物を生産する高等植物を利用することについてNASA40年に及び研究してきた。3年以上の長期間のスペースミッションにおいて高等植物の光合成速度は、食物の生産と同様に、植物を利用した大気再生システム(CO2の除去とO2の生産)における決定的な要素である。従って、光合成装置の発達に微小重力(μg)環境が及ぼす影響と、その宇宙での機能が重要となる。本研究では、Triticum aestivum L. cv. USU Apogeeにおいて微小重力が葉緑体の発達や糖代謝、葉の発達過程における遺伝子発現にどのような影響を与えているのかを調べることを目的とした。

葉の横断面の厚さは吸水から14日間μgで生育したものと、地上1 gで生育したものとでは違いが見られなかった。地上1 g条件下で21日から24日間生育した植物においては、老化に伴って葉の厚さが変わるということはなかったが、μg条件下では葉の厚さが老化に伴って直線的に減少した。21及び24日後においては、1 g条件で生育したものと比べると、μg条件で生育したコムギの葉の方が薄かった。

 21日齢の植物の葉の細胞密度を切片において調べたところ、μg条件の方が地上1 g条件のものよりも13%ほど大きかった。細胞の横断面積に関してはμg条件と1 g条件の試料の間に有意な差は見られなかった。また、細胞壁や核、ミトコンドリアといった細胞構造はいずれの条件においても異状は見られなかった。

 μg条件と1 g条件下のそれぞれで育った葉の間で、細胞あたりの葉緑体の密度に違いはなく、電子顕微鏡下で調べたところμg条件下で生育した場合の葉緑体の方が地上1 g条件で生育したものよりも少し丸い形状をしていた。グラナ1つあたりのチラコイドの数に統計的な違いはなかったが、チラコイド膜間の間隔は1 g条件下と比べてμg条件下では約0.9 nmほど近接していた。μg条件ではチラコイド膜の分解が散発的に見られた。

 葉の乾燥重量あたりの不溶性デンプンの含量は、地上1 g条件下で生育した場合と比べて、軌道上で収穫した21日齢の葉の場合でも、μg条件下で生育し、着地後、地上で収穫した14日齢の場合でも違いが見られなかった。

 21日間のμg条件または地上1 g条件下で育てた葉の間では、リグニン含有量、コニフェリル、p-hydroxybenzenzaldehyde、シナピルといった不溶性リグニン構成成分、アルコールに不溶な細胞壁糖類において違いはなかった。

 μg条件と1 g条件の2個体から得た葉をプールしてマイクロアレイ解析を行ったところ、葉の組織では計820個の遺伝子がいずれの条件においても発現していた。しかし、μg条件と1 g条件の間において発現に差は見られなかった。マイクロアレイチップは野生型系統のコムギのcDNA配列から作られたものであり、ゲノム上の全ての遺伝子を完全には含んでいないが、主要な生化学的経路に関わる遺伝子のほとんどを含み、当時入手できたものとしては最も完全なアレイであった。

これらの結果より、μg環境においてもコムギの代謝にはほとんど影響を受けないことが示された。

 

興味をもたれた方は是非ご参加ください。  高橋郁佳