2014年度後期 第4回 細胞生物学セミナー(唐原研究室)

日時・場所:114日(火)17:00~・総合研究棟6階クリエーションルーム

Enhancement of porosity and aerenchyma formation in nitrogen-deficient rice roots

Abiko, T., Obara, M.2014

Plant Sci. 215-216: 76-83

窒素欠乏のイネの根における空隙率と通気組織形成の増大

 

植物の根に形成される通気組織は、シュートから根への酸素供給を促進し、根の呼吸を助けることで植物の冠水耐性に寄与している。細胞死によって形成される皮層通気組織は、根の発生とともに形成される構成的通気組織と、冠水、乾燥、栄養の欠乏などの環境因子への応答において形成される誘導的通気組織の二種類に分けられる。トウモロコシやコムギなどの陸生作物は誘導的通気組織のみを形成するが、イネなどの湿地性植物は構成的および誘導的の両方の通気組織を形成する。誘導的通気組織形成に関する研究は、陸生作物においては多く行われてきたが、構成的な形成との区別が難しいイネにおいては少ないのが現状である。また、植物にとっての環境ストレスである土壌の窒素不足は一般的に良く見られるにもかかわらず、通気組織形成との関わりは不明である。そこで本研究ではイネ(Oryza sativa L. ssp. japonica ‘Koshihikari’)を用いて、(1)根の窒素不足応答における誘導的通気組織形成の評価が可能である生育条件を確立すること、(2)窒素不足により誘導される通気組織形成の時空間的なパターンを明らかにすることの二つを目的とした。

 イネの芽生えの生育条件として、窒素を欠いた栄養液にNH4ClおよびO2を与えた栄養液(対照条件)、またはO2のみを与えた栄養液(窒素欠乏条件)において10日間生育、または対照条件で2日間生育した後に脱酸素化してNH4Clを与えた栄養液(酸素欠乏条件)に移して8日間生育させた。そして目的(1)のために、著者らの以前の生育方法[2-N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)を使用せず、栄養液の交換を行わなかった]と、それに新たな変更(MESを使用し、2日ごとに栄養液を新しくした)を加えて本研究で確立した新しい生育方法をそれぞれ用いて上記の3条件下で芽生えを生育させた。栄養液の状態を評価するために、栄養液におけるpH、溶解酸素濃度と酸化還元電位(Eh)を播種後(DASdays after sowing)から2日おきに計測した。その結果、pHは以前の生育方法の栄養液において10日間での緩やかな減少が見られたが、新しい生育方法においては安定していた。溶解酸素濃度とEhにおいては両条件間で明らかな違いが見られなかった。また、新しい生育方法における窒素欠乏条件下では対照条件下と比較して、窒素欠乏応答として典型的な変化であるシュートの長さ、シュートの乾燥重量、根の乾燥重量における有意な減少、最大根長における有意な増加を示した。これらの結果より、新しい生育方法は植物への窒素欠乏の影響を評価する上で信頼できると言えるため、目的(2)のための以下の実験に用いた。

 10 DASにおいて一次根全体の空隙率を比重瓶法によって計測したところ、対照条件下と比べて、窒素不足条件または酸素不足条件下で生育された芽生えにおいて有意に高かった。次に、根の長軸に沿った通気組織形成の空間的な評価を行うために、10 DASにおいて一次根の根端から茎根遷移部にかけて5 mmごとの11の区間に分けた。また、通気組織形成を時空間的に評価するために、2 DAS6 DAS10 DASにおけるそれぞれの一次根の根端から茎根遷移部にかけて5 mmごとの4つの区間に分けた。それぞれの区間において作製した横断切片を明視野顕微鏡下で観察し、CCDカメラで写真撮影を行い、ソフトウェアImage Jを用いて根の横断面積に対する通気組織面積の割合を算出した。これらの結果、対照条件下と比較して窒素欠乏条件下では、10 DASのすべての区間における通気組織形成の増加が見られた。また、酸素欠乏条件下における通気組織形成は、6 DASにおいては根端側のみ、10 DASにおいては根の中央部から基部側にかけて増加が見られた。

 本研究で確立された生育条件下において、窒素欠乏による通気組織形成の誘導と、その形成の時空間的パターンと酸素欠乏によるパターンとの相違が観察された。このことより、窒素欠乏による通気組織形成誘導の生理学的な役割は、酸素欠乏による誘導とは異なっている可能性が示唆された。

興味をもたれた方は是非ご参加ください。 松澤勇介