2014年度後期 第5回 細胞生物学セミナー (唐原研)

日時 1111 (火)  17:00

場所 総合研究棟6階クリエーションルーム

Furutani, M., Kajiwara, T., Kato, T., Treml, B. S., Stockum, C., Torres-Ruiz, R. A. , Tasaka, M.

Development (2007) 134:3849-59

The gene MACCHI-BOU 4/ENHANCER OF PINOID encodes a NPH3-like protein and reveals similarities between organogenesis and phototropism at the molecular level

MACCHI-BOU 4/ENHANCER OF PINOID 遺伝子はNPH3様タンパク質をコードしており、

器官形成と光屈性の間に分子レベルで類似性があることを示す。

 

植物ホルモンのオーキシンの細胞間輸送は、植物の器官形成における重要な因子である。先行研究では、器官の位置決定は、胚と後胚期の発生の両方で局在的なオーキシンの濃度と関係していることが示されている。このオーキシンの局在的な蓄積は、生合成部位から一定の方向に細胞間輸送システムによって誘導される。この過程において、オーキシン流出キャリアは重要な役割を果たしている。近年、PIN-FORMED (PIN) P糖タンパク質 (PGP) 輸送タンパク質は、細胞からのオーキシン流出に関係する機能を持つこと、そしてPINタンパク質の細胞内局在をオーキシン自体が調節することが示された。遺伝学的研究によりシロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana) におけるPIN局在の因子がいくつか同定され、GNOM/EMB30BIG/TIR3/DOC1PIDENHANCER OF PINOID (ENP) の遺伝子の変異によって、PINタンパク質の局在が失われることがわかった。このうちPID遺伝子は、オーキシン極性輸送に関与する、Ser/Thrキナーゼをコードしている。またENPPIDと共同してPIN1を制御していることが報告されている。

シロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana ecotype Columbia (Col)) の実生はシュート頂端分裂組織周辺で左右対称の2つそれぞれが別れている子葉をもつ。PIDが子葉の発生に関わりがあることは、pid-3実生の子葉の数、分離、位置の異常より証明されている。しかしpid-3変異体は子葉を欠損したpin1-201pid-3の二重変異体よりも子葉の発生の異常は軽度であることを示したため、子葉形成への寄与は部分的である。これは、PIN1PIDに依存する2つの経路が子葉形成に機能する可能性を示している。本実験では経路の因子を同定するために、スクリーニングによってpidエンハンサーを同定しmacchi-bou 4 (mab4) と名づけた。mab4-1の単一変異体の実生は、非常に低い頻度で子葉の数の異常や子葉の融合を示した。しかしpid-3と掛け合わせた時、器官形成に著しい異常が起こり、二重変異体の実生は完全に子葉を欠損した。またpin1-201 pid-3  の二重変異体のように、pid-3 mab4-1 の二重変異体は花芽分裂組織に器官を形成することが全くできなかった。MAB4遺伝子を同定した結果、PIDと共同して器官形成に関わる新規タンパク質をコードしていることがわかった。この新規タンパク質は、光屈性とオーキシンの横方向の移動の制御においてシグナルトランスデューサーとして機能していると考えられているNON-PHOTOTROPIC HYPOCOTYL 3 (NPH3) ファミリーに属しており、これはENPと同じものである。よって、PIN1の極性を制御していると示唆されているENPMAB4が同じものであることがわかった。

MAB4/ENP の発現パターンを調べた結果、胚の原胚葉細胞層と器官形成部位の分裂組織L1層で発現が見られた。蛍光タンパク質で標識すると、mab4-1胚では、PIN1:GFPの存在量は原胚葉細胞層の細胞膜で激しく減少することがわかった。同様に蛍光タンパク質を用いて細胞内の局在を解析した結果、シロイヌナズナ培養細胞では、MAB4/ENPは未確認の細胞内区画と同じ様なエンドゾームの部分母集団に存在し、部分的にPIDと共局在していた。

これらの結果から、MAB4/ENPPIDと一致して器官形成における極性のオーキシン輸送の制御因子として機能することが示唆され、器官形成と光屈性の間の分子機構の類似性が示された。

興味をもたれた方は是非是非ご参加ください。 丹羽時生