2014年度後期　第8回　細胞生物学セミナー(唐原研)

日時：12月2日(火)　17：00~

場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

Plant roots use a patterning mechanism to position lateral root branches toward available water

Bao, Y., Aggarwal, P., Robbins, N. E.II., Sturrock, C. J., Thompson, M. C., Tan, H. Q., Tham, C., Duan, L., 　Rodriguez, P. L., Vernoux, T., Mooney, S. J., Bennett, M. J., Dinneny, J. R. (2014)

Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 111:9319-24

植物は、得られる水のある方向へ向かう側根の分枝を位置づけるためにパターン形成メカニズムを用いる。

植物の根系は内在性の要因と環境要因によって形成される分枝ネットワークであり、パターン形成のモデルとして役立つ。得られる水は根の生理と生長に影響を与えることが知られている。しかし、この刺激が根の構造に影響する空間的な規模のレベルは十分に理解されていない。シロイヌナズナにおいては、2つある木部極のうちのいずれかの側から選択的に側根が形成されるが、そのしくみはわかっていない。本研究では根の周囲において得られる水の位置による差が、側根の分岐の位置を決定する空間的な手がかりとなるか否かを調べた。

試料にはシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana Columbia (Col-0)株またはLandsberg erecta [La(er)]株またはC24株)、トウモロコシ(Zea mays inbred line B73)、イネ(Oryza sativa (L.) ssp. japonica cv. Kitaake またはTaichung 65)を用いた。シロイヌナズナの実生を生育させ、10日後に側根の出現パターンを定量化した。イネは28℃、MS寒天培地で発芽させた。トウモロコシ穀粒は室温で、脱イオン水に4時間浸漬し、根冠は除去した。

シロイヌナズナを寒天培地表面に沿って10日間生育させ、一次根の側面の半分が寒天培地表面とその水分に接触するように、もう一方が大気に曝露されるようにした。すると、側根の生長は大気面側と寒天面側で空間的に非対称なパターンを形成し、側根は寒天面に多く出現した。この側根の非対称な生長パターンは根を寒天に埋め込んで生長させた場合には失われ、異なるパターン形成は非対称な環境に起因することが示唆された。イネとトウモロコシの生長においても根の寒天面側でより多くの側根が観察された。また、土壌中に開けた縦孔の表面に沿ってトウモロコシの根を生長させ、X線マイクロCTにより側根を可視化したところ、土壌と直接接触する根の表面に多くなるという偏った側根パターン形成が明らかになった。寒天表面上で生育させたイネとトウモロコシの実生では根の大気面側において通気組織が多く形成された。トウモロコシの根をろ紙上で生長させた場合、アントシアニン色素が根の大気面側にのみ蓄積した。また、実験に用いた全ての試料において、大気面側で根毛の増加傾向が示された。これらのパターン形成をハイドロパターニングと名付けた。

　次に、シロイヌナズナにおいてどの段階でパターン形成が行われるかを調べた。側根創始細胞のマーカーであるProDR5:VENUS-N7の導入株を調べたところ、その発現の段階ですでにパターン形成が見られた。一方、原生篩部マーカーのProS32:erGFP導入株を用いて、木部の二原型の極性が形成される時期との関係を調べたところ、その時期にはまだパターン形成は見られなかった。次に側根形成にかかわるオーキシン生合成と輸送の、パターン形成への関与を調べた。トリプトファンをオーキシン前駆体に変換するL-トリプトファンピルビン酸アミノ基転移酵素をコードするTAA1の変異体(wei8-1やsav3-1)ではパターンが消失したが、wei8-1にProUBIQUTIN10:TAA1を導入しTAA1を構成的に発現させるとパターン形成が回復したことから、局所的なTAA1発現がパターン形成に必要なわけではないことがわかった。次にオーキシン輸送に着目した。細胞からの排出が可能であるIAAまたは不可能な2,4-Dで実生を処理した結果、2,4-D処理した実生でのみ偏った側根形成が妨げられた。ProPIN3:PIN3:GFP導入株でその発現を調べたところ、PIN3タンパク質の局在の段階からパターン形成が見られた。さらに、根の様々な組織で発現するGAL4エンハンサートラップ株と、エフェクターとしてオーキシンによる転写調節のドミナントサプレッサーである変異遺伝子axr3-1を組み込んだUAS:axr3-1株と掛け合わせて得た株でパターン形成を調べたところ、皮層・内皮でaxr3-1を発現させるGAL4/UAS株でとくに形成が低下したことから、これらの組織でのオーキシンシグナリングがパターン形成に必要であることが示唆された。以上の結果から、オーキシンの合成、局所的な輸送、およびその後の転写調節がハイドロパターニングに必要であることが示された。

興味を持たれた方は是非ご参加ください　

松井　亮