2014年度後期第7回 細胞生物学セミナー (唐原研究室)

日時:1125 () 17:00

場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Auxins reverse plant male sterility caused by high temperatures

Sakata T., Oshino T., Miura S., Tomabechi M., Tsunaga Y., Higashitani N., Miyazawa Y., Takahashi H., Watanabe M.,  Higashitani A. (2010)

Proc. Natl. Acad. Sci. USA 107: 8569-8574

オーキシンは高温によって生じる植物の雄性不稔を回復させる。

 

地球温暖化により植物の高温による障害はますます深刻な問題となっている。コムギやオオムギ、そのほかの様々な商業的に重要な作物において、葯発生の初期段階は特に高温に対して影響を受けやすく雄性不稔性が高温障害により生じているという報告がなされている。しかし高温障害の生理及び分子機構とそのダメージを回復させるための方法はまだ完全に解明されていない。一方、多くの生理および発生過程に関わるオーキシンは、気温の上昇によっていくつかの植物組織内で生合成が活性化することが報告されている。そこで本研究では高温によって生じる雄性不稔におけるオーキシンの関わりを明らかにするため、オオムギとシロイヌナズナを用いて内在性のオーキシンとオーキシン生合成に関わるYUCCA遺伝子の発現に対する気温上昇の影響とともに、外因性オーキシンにより高温障害が回復するか否かを調べた。

材料はオオムギ (Hoedeum vulgare L. cv. “Haruna-nijyo”) とシロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana (L.) Heynh.) のそれぞれの野生型と、合成したオーキシン応答配列の制御下にβ-glucuronidase (GUS) レポーター遺伝子を置いた組換え遺伝子 (DR5-GUS) を発現させたシロイヌナズナ系統と、天然オーキシン応答遺伝子にGUSレポーター遺伝子をつないだ組換え遺伝子 (ARF19-GUS) を発現させたシロイヌナズナ系統を用いた。オオムギを通常の温度条件下 (/夜がそれぞれ20/15) で生育させた後、穂が2 mmの長さで先端に5枚の葉が現れた時から高温 (30/25) 5日間処理したところ、オーキシン抗体を用いた免疫染色により内在性オーキシンのレベルが減少していることがわかった。シロイヌナズナを昼夜共に23℃で生育させた後、31℃または33℃の条件に移し、一次花序を観察したところ、組換え体では雄蕊が短くなり花粉生産が低下するなどの高温障害が観察され、また内在性オーキシンのレベルが葯内では特に減少していた。加えてYUCCA遺伝子の発現は気温の上昇によって抑制されていた。以上より、発達している葯内における内在性オーキシンの生合成の低下が、高温傷害による花粉の稔性低下の原因であることが示唆された。次に高温障害を誘導する条件下で、オオムギにおいては出穂した時期から、異なる濃度のインドール-3酢酸 (IAA)、合成オーキシンである1- ナフタレン酢酸 (NAA) または2, 4- ジクロロフェノキシ酢酸 (2, 4-D) を含む溶液をシュート全体に散布し、シロイヌナズナにおいてはIAANAAを一次花序先端に散布した。そしてオオムギ、シロイヌナズナのそれぞれ出穂、開花の時期に葯の長さの計測を行い、成熟した花粉の数をカウントした。また葯の長さおよび成熟した花粉粒の数は、高温処理したいずれの植物種においても、またIAANAAのいずれのオーキシンを適用した場合でも、用量依存的に雄性不稔が回復していた。これらの知見から、組織特異的なオーキシンの減少が高温による障害の主な原因である花粉発達の中絶を誘導していることが示された。そしてオーキシンの適用が、将来の地球温暖化において、作物の定常的な収穫の維持するための手段になることが示唆された。

 

興味を持たれた方は是非ご参加ください  後藤圭太