2014年度後期 第1回 細胞生物学セミナー

日時:107日(火) 17:00~ 

場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Alejandro, S., Lee, Y., Tohge, T., Sudre, D., Osorio, S., Park, J., Bovet, L., Lee, Y., Geldner, N.,

Fernie, R. A., Martinoia, E. (2012)

AtABCG29 is a monolignol transporter involved in lignin biosynthesis

Current Biology, 22: 1207–1212

AtABCG29はリグニン生合成に関わるモノリグノール輸送体である。

 

リグニンは三次元網目構造をとる巨大な生体高分子である。リグニンはp-クマリルアルコール、コニフェリルアルコール、シナピルアルコールの3つのモノリグノールがペルオキシターゼとラッカーゼによる酸化的カップリングで細胞壁において、それぞれp-ヒドロキシフェニル(H)ユニット・グアイアシル(G)ユニット・シリンギル(S)ユニットとして重合することで形成される。しかしながら、モノリグノールが細胞基質から細胞壁へと輸送される機構は長年わかっていなかった。

本研究では、ATP加水分解依存性輸送の一つであるATP結合カセット輸送体であるAtABCG29p-クマリルアルコール輸送体として働くか否かを調べた。AtABCG29の一次茎における発現パターンはリグニン生合成に関係する遺伝子の発現パターンと一致しており、モノリグノール輸送体の候補の一つとして報告されている。AtABCG29の組織および細胞内での局在を調べるために、AtABCG29プロモーターにGUSレポーター遺伝子と核局在性の蛍光性レポータータンパク質NLS-GFPの遺伝子を 融合したものを導入した変異体(promABCG29::NLS-GFP-GUS )のGUS活性およびGFP局在の観察を行った。結果としてGUSシグナルはリグニンが沈着しておらずモノリグノール輸送が行われていない根端部の生長点以外で確認でき、またGFPの局在は内皮と維管束組織上部においてのみ観察された。さらにAtABCG29プロモーターとCitrine-AtABCG29の融合遺伝子の発現によってAtABCG29が根内皮と維管束組織の細胞膜に発現することが明らかとなった。次に8つのABC transpoterの機能が欠損した酵母YMM12株にてAtABCG29を強制発現させた変異体を作製した。p-クマリルアルコール存在下ではその毒性によりYMM12株の増殖が大きく阻害されたが、この変異体ではp-クマリルアルコールの排出することにより増殖が部分的に回復した。AtABCG29を強制発現させた酵母から単離した小胞においてはp-クマリルアルコールの輸送活性が向上した。シロイヌナズナのAtABCG29のノックアウト変異体であるabcg29-1abcg29-2と野生型をp-クマリルアルコールを含んだ培地で二週間生育させたところ、野生型と比較して両変異体とも根長が有意に短くなっていた。さらに5 mM p-クマリルアルコール曝露後でのAtABCG29 転写産物レベルを定量的リアルタイムPCRqRT-PCR)により調べた。AtABCG29の発現量は曝露8時間後で曝露直後と比較して3.5倍上昇した。これらの結果はAtABCG29p-クマリルアルコールの搬出に重要であり、p-クマリルアルコールへの耐性を植物体に付与することを示唆している。AtABCG29がリグニン含有量やモノリグノール組成に影響するのか否か調べるために、両変異体と野生型のガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)によるメタボロームのターゲット解析を行った。結果として、野生型と比較して変異体ではリグニン中のp-ヒドロキシフェニル(H)ユニットだけでなく、グアイアシル(G)ユニット・シリンギル(S)ユニットも有意に減少した。これによりAtABCG29p-クマニルアルコール以外の他の代謝産物にも影響をする可能性が示唆された。そこでGC-MSおよび液体クロマトグラフィー質量分析を用いたメタボロームの非ターゲット解析を行ったところ、野生型と比較して、フラボノール類およびグルコシノレート類は減少していた。フェノール類とグルコシノレート類化合物産生に関わるいくつかの酵素遺伝子についてqRT-PCRを行ったところ、有意な発現量の減少がみられた。これはAtABCG29p-クマリルアルコール輸送を通じてフェノール類とグルコシノレート類化合物産生に関わる可能性を示している。

以上の結果はAtABCG29p-クマリルアルコール輸送体であることを強く示唆している。これはモノリグノール輸送体として初めて同定されたものであり、リグニン生合成経路を解明する上での重要な入り口となる。

興味をもたれた方は是非ご参加下さい。松本