2014年度 第8回 細胞生物学セミナー (唐原研究室)

日時:71 () 17:00

場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Phototropism of Arabidopsis thaliana in microgravity and fractional gravity on the International Space Station

Kiss, J. Z., Millar, K. D. L., Edelmann, R. E. (2012)

Planta 236: 635-645

国際宇宙ステーションにおける微小重力および1 G以下の重力下でのシロイヌナズナの光屈性

 

 光屈性と重力屈性の相互作用は植物の生長のために重要である。著者らの近年の微小重力下における研究によりシロイヌナズナの胚軸における赤色光による正の光屈性が発見された。一方で、赤色光は青色光による光屈性を増強し、重力屈性を弱めることも知られるため、赤色光が重力屈性を弱めることで青色光による光屈性に間接的な役割を果たすのか、直接影響するのかはまだ明らかではない。このことを明らかにするためには重力加速度を多段階に変えた実験が必要である。植物の赤色光の受容体してはPHYAPHYB2種のフィトクロムが知られているが、それらの関わり方も不明である。地球上では重力により純粋な光屈性反応の研究を行うのは困難なため国際宇宙ステーションにおいて実験を行った。地球周回軌道上では1 gより小さく数分の一という重力加速度の実現も可能である。そこで本研究ではISSにおける欧州のモジュラー栽培システム (EMCS) においてµ gに加え遠心機により発生させた0.10.31 gという重力環境下で光屈性と重力屈性の間における相互作用を調べた。

材料としてはシロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana) Landsberg ecotype (Ler) の野生型 (WT) とフィトクロム変異体 (phyA-201, phyB-1) を用いた。1 g環境下で片側から白色光を照射し96時間生育させた後、各重力区で側方の一方向から赤色光または青色光を照射し、その間の生育の様子を撮影した。撮影した画像から実生の生長と胚軸および根の屈曲角度の計測を行った。WTの胚軸および根で見られる赤色光による正の光屈性は、おおむね重力加速度に依存して阻害が増加し、0.10.3 g区においてもすでに阻害されていた。また根における青色光による負の光屈性ではµ g区では強く見られたが0.3 g区においてはすでに有意に減衰した。µ g区において見られる赤色光による屈曲増加は、胚軸および根のいずれの場合もphyBにおいてより顕著に起こったため、この反応には主にPHYBが関わることが示された。さらに胚軸および根における、青色光による (それぞれ正および負の) 光屈性の赤色光による増強が重力屈性の減衰によるのか否かを検証するために、1 g区およびµ g区において青色光処理の前に赤色光の前処理が有る場合と無い場合で屈曲を比較した結果、胚軸は赤色光の前処理によりµ g区で屈性が抑制されたのと対照的に、根においては1 g区、µ g区のいずれも赤色光による増強は同程度という結果が得られた。

本研究により実生の胚軸で赤色光による正の光屈性の存在が再確認された。胚軸において青色光で誘導された正の光屈性に対する赤色光による増強は、おそらく重力屈性の減衰による間接的な影響が原因である。他方、根における青色光による負の光屈性に対する赤色光による増強は、直接的な影響すなわちフィトクロムの光受容体を通じたものである可能性が示唆された。また著者らの知る限り、これらの実験は数分の一という重力条件下で顕花植物の様子を最初に調べたものである。

 

興味を持たれた方は是非ご参加ください       後藤圭太