2014年度前期 第6回 細胞生物学セミナー

日時:617日(火) 17:00

場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Silicon enhances suberization and lignification in roots of rice (Oryza sativa)

 Fleck, T. A., Nye, T., Repenning, C., Stahl, F., Zahn, M., Schenk, K. M.  (2011)

J. Exp. Bot. 622001-2011

ケイ素は、イネの根におけるスベリン化とリグニン化を高める。

 

 ケイ素は土壌中に2番目に多く含まれている成分であり、特にイネなどのイネ科植物では健康な生長発達を支える有益な成分である。また、ケイ素は根における放射方向への酸素漏出(radial oxygen lossROL) にも影響すると考えられている。ROLに対するバリア形成は外皮のスベリン化と厚壁組織のリグニン化に起因し、強いバリアを形成している組織細胞はより高い量のスベリンとリグニンを含んでいることが報告されている。またバリア形成を制御している要因のひとつとして、培地の通気環境があることが見出されている。そこで本研究では、ケイ素供給がイネの根の酸化力に与える影響とリグニン化やスベリン化に与える影響について検討した。それに加え、スベリンとリグニンの合成と関係している265の遺伝子の、ケイ素により誘導される転写レベルでの変化についても検討を行った。

材料にはイネ(Oryza sativa L. ev. Selenio)を用いた。水道水で発芽させたイネ種子をケイ素を含んだ栄養液(50 ppm, 1.78 mM)と含まない栄養液(0 ppm)にそれぞれ移し、28日間グロースチャンバー内で生育させた。そこから得られたサンプルを元に、根が有害な還元性物質(Fe²など)を酸化するための酸化力の可視化、スベリンおよびリグニンの組織化学的解析、マイクロアレイと定量的リアルタイムPCRによるスベリン化・リグニン化に関わる遺伝子発現の解析を行った。

 その結果、全長12 cmの不定根ではケイ素の供給がない場合には根の酸化領域は根全体に及んだが、ケイ素の供給がある場合では酸化領域は根端から5 cmまでの範囲に制限された。このパターンは、ケイ素の供給による外皮のスベリン化と厚壁組織のリグニン化の増強と一致した。外皮におけるスベリンとリグニンの沈着は、ケイ素の供給がある場合は根端から4-5 cmの場所から、ケイ素の供給がない場合は根端から8-9 cmの場所から開始していた。そして根端からの距離が大きくなるにつれて、外皮のスベリン化と厚壁組織のリグニン化は両方の処理区において増強された。また、根端から0-2 cm4-6 cmの各部分における遺伝子発現の解析結果を合わせると、ケイ素の供給によってスベリンやリグニンのモノマー合成に関わる酵素、クラス。ペルオキシダーゼ、ABC輸送体などをコードする12遺伝子の転写産物量が著しく増加する一方で、クラス。ペルオキシダーゼの2遺伝子の転写レベルは低下した。またスベリン化やリグニン化との関連は不明であるが、Receptor like kinases(RLK)ファミリーに属し、ロイシンを多く含む反復タンパク質(LRP)をコードしている遺伝子がケイ素供給によって4-6 cmの部分において25 倍も高い転写レベルを示した。

ケイ酸を供給した根の基部側において、ROLが減少したことによって酸化力が減少したことが示された。この酸化力の低下はROLバリアによるものであり、バリアとしての内皮と外皮でのカスパリ―線の形成が促進された。またケイ素処理によりスベリン形成に関係する遺伝子の発現が高まったことは組織化学的な所見と一致していた。ケイ素供給によりLRR-RLKをコードする遺伝子の転写が大きく変化したことから、この転写産物がケイ素シグナル受容あるいはスベリン化・リグニン化に中心的役割を果たすタンパク質を調節しているという可能性も示唆された。

 

興味を持たれた方はご参加ください  田中美樹