2014年度前期 第1回 細胞生物学セミナー

日時:513 () 16:30~

場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

The effect of temperature on reproduction in the summer and winter annual Arabidopsis thaliana ecotypes Bur and Cvi

Huang, Z., Footitt, S., Finch-Savage, W. E. (2014)

Ann. Bot. 113: 921-929

シロイヌナズナの生態型Bur (夏型一年生)Cvi (冬季一年生) の生殖に与える温度の影響

 

 植物の生活環の主な転換期である発芽と生殖のタイミングは遺伝および環境により制御されている。種子の収量と休眠状態は母体内における環境、特に温度による影響を受け、種の適応度における重要な要素となる。このことは気候変動の影響の観点から特に重要である。環境条件に対する適応は同じ種の生態型の間でも異なることがある。そこで本研究では生殖発生、種子生産および引き続く発芽における母体環境の影響を、シロイヌナズナにおいて夏型一年生あるいは冬季一年生の表現型を示す、それぞれ熱帯の乾燥した気候に適応した生態型 Cape Verdi Island (Cvi) あるいは寒冷で湿気のある気候に適応した生態型Burren (Bur) 2つの対照的な生態型において比較した。

 CviBurを抽だいするまで共通の環境 (23/17, 12/12 h, light/dark) で生育した後Bur環境 (17/10, 14/10 h, light/dark) またはCvi環境 (27/22, 12/12 h, light/dark) において育て (CviBurで育てた場合、Cvi/Bur (生態型/管理環境) と表記する)、生殖、発生、種子生産および発芽に関して調べた。花粉の生存率、花器官構造の発達、および休眠状態を測定するために光条件下で10℃と25℃における種子の発芽テストも行った。

 共通の環境で育てた場合、Cviと比べてBurの抽だいの時期は遅れた。Cvi環境で育てた場合、種子収穫量はCviと比較してBurで大きく減少したが、得られたBur/Cviの種子はいずれの気温でも高い発芽率を示した。一方、Cvi/Burはいずれの気温でも全く発芽しなかった。Burの花器官形態は温度の影響を受けやすく、Bur/Cviにおいては、雄蕊の伸長がおこるべきstage14において雄蕊の伸長が抑制され雌蕊より有意に短いまま留まった。雄蕊の伸長に関わるジベレリン (GA) Bur/Cviを処理した場合、雄蕊と雌蕊の長さに有意な差は見られなかった。一方、Bur/CviにおいてGA処理または手による受粉を行った場合、長角果内の胚種の数および胚種の受精率はある程度回復していた (受精率はBur/Burに対してそれぞれ84および94)。このことから、Cvi環境においてBurが受粉に失敗したのは、花粉の生存率が低下したためではなく、雄蕊の花糸の伸長が制限されたためであることが示唆された。

 両方の生態型において、反応の程度は異なるものの、母体環境における高温が休眠状態を減少させ、最終的な収穫量に負の影響を及ぼした。ただしCvi環境がどのようにGA生合成を減少させ、雄蕊の伸長を抑制させているかどうかは不明である。将来予測されるより高い気温は種子の能力に影響すると予測されるが、その結果は同じ種の生態型の間では大きく異なるかもしれない。

 

興味を持たれた方は是非ご参加ください

後藤 圭太