2014年度前期 第2回 細胞生物学セミナー

日時:521日(水)17:00~

場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Analysis of secondary growth in the Arabidopsis shoot reveals a positive role of

jasmonate signalling in cambium formation

Sehr, E. M., Agusti, J., Lehner, R., Farmer, E. E., Schwarz, M., Greb, T. (2010)

Plant J. 63: 811–822

シロイヌナズナのシュートでの二次生長の解析は形成層形成における

ジャスモン酸シグナルの正の役割を明らかにした。

 

 一次生長の後、多くの双子葉植物が二次生長へと移行する。二次生長は二次維管束組織を形成することでシュートおよび根の直径の増加に関わっている。シュートにおける二次生長の開始は、維管束間領域のような一次維管束の間で生じる分裂組織の活性が引き金となる。この結果作られる円筒状の分裂組織が維管束形成層である。植物の生長やバイオマスの蓄積に密接に関係しているにもかかわらず、二次生長の分子制御は十分に理解されていない。そこで筆者らは伸長中のシュートの維管束間領域において形成層の形成と活性の変遷が二次生長の確立に必要な工程とみなし、本研究では組織学的、分子生物学的、遺伝学的なアプローチを組み合わせ、シロイヌナズナの花序シュートでの維管束間形成層の形成過程を明らかにすることを目的とした。

 植物試料にはシロイヌナズナArabidopsis thaliana (L.) Heynh. を用い、複数の生長段階での横断切片の観察による組織学的解析を行った。また、茎の節間部と基部のマイクロアレイ解析からゲノム全体の転写プロファイリングを行った。これを基に、ジャスモン酸シグナル抑制因子を欠損した変異体jaz10-1jaz10-2jaz7-1を用いて維管束間形成層の軸方向と放射方向への拡大、茎直径の変動を解析し、ジャスモン酸シグナル活性因子の欠損した変異体coi1-1myc2-3においても軸方向への伸長の度合いを解析した。さらに、ジャスモン酸シグナルを可視化するためにJAZ10:GUSレポーターを発現する系統を作成し、JAZ10が植物体のどの領域において発現するかを観察するとともに、接触刺激を与えることでJAZ10の発現に影響があるか否か、加えて接触処理後の時間経過が発現量に与える影響について調査した。

 ゲノム全体の転写プロファイリングから、茎で二次生長が生じる領域において発現上昇が見られた遺伝子のうち32%がストレス関連遺伝子、20%が接触誘導性遺伝子として分類された。さらに、ジャスモン酸シグナル経路を構成するCOI1MYC2JAZ7と接触誘導遺伝子JAZ10の産生物が形成層の制御因子であることが示された。形成層活性に対してジャスモン酸処理は正の影響を示したことから、二次生長におけるジャスモン酸の促進的役割が確かめられ、ジャスモン酸シグナルは特定の状況で細胞分裂を引き起こすことが示唆された。さらに、特に周囲の環境により生じる物理的ストレスに曝されている茎においてジャスモン酸シグナルが機械的な力の存在を伝達している可能性が示された。本研究により、二次生長、すなわち大部分の陸生のバイオマスの源の根底に存在するメカニズムに対する新たな知見がもたらされた。

興味を持たれた方は、是非ご参加ください。

村本 雅樹