2015年度後期 第1回 細胞生物学セミナー (唐原研)

日時:101日 (木) 1700~

場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Cellular events during interfascicular cambium ontogenesis in inflorescence stems of Arabidopsis

Mazur, E., Kurczyńska, E. U., Friml, J. (2014)

Protoplasma. 251: 1125-1139

シロイヌナズナ花茎における維管束間形成層発生中の細胞で起こる事象

 

維管束形成層は茎、枝、主根において囲まれた環を形成する側生分裂組織であり、二次篩部と二次木部を産生する。この二次生長は木本植物において特に顕著であるが、木本植物の生長の遅さ、世代時間の長さ、変異体の不足などの原因によりそのメカニズムは十分に理解されていない。先行研究によりシロイヌナズナは二次生長を研究するのに適したモデル種であることが報告されており、形成層発生と二次生長を制御するメカニズムの研究に新しい可能性を与えることが示唆される。本研究ではシロイヌナズナ花茎において維管束間柔細胞 (IPC) が維管束間形成層へと変遷していく間にIPC内で生じる細胞事象を解析することを目的とした。

実験材料にはシロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana (L.) Heynh.) を用い、土とバーミキュライトの混合物 (1:1, v/v) の入ったポット上において、グロースチャンバー (光条件:8/16-h L/D60 µmolm-2s-1湿度:30%、温度20)内で10-11週間生育した。生育したシロイヌナズナのうち、茎長が9-10 cmの未成熟な花茎を選択し、形成層の発達を促進させるために、先端部1-2 cmを切除して重さ2.5 gの人工的な重りで覆った。重り処理は完全に囲まれた形成層環が観察できる6日目まで行われ、毎日花茎の基部5 mmの区間が採取された。得られた花茎の基部断片は、組織学的解析のために2%グルタルアルデヒドで固定後、Epon樹脂に包埋、histoダイヤモンドナイフを装着したLeica EM UC6 ウルトラミクロトームで厚さ2 µmの準-超薄横断または縦断切片が作製し、過ヨウ素酸シッフ試薬とトルイジンブルーで染色するか、または免疫検出のために無水メタノールと99.5%酢酸の混合物 (3:1, v/v) で固定後、LR White樹脂で包埋後、同様に1 µmの切片を作製し、免疫検出を行った。

解析の結果、重り処理後24時間の期間では、コントロール (先端部切除後、重り処理無し) と比べ構造の変化は見られなかった。2-3日目に維管束に接するIPCにおいて並層分裂が確認され、4-5日目には分裂する細胞の領域が維管束間領域の中間部に向かい伸展し、6日目までには完全に囲まれた形成層の環が形成された。一方でコントロールでは6日目においても茎の一次構造は保たれており、維管束間領域における並層分裂は確認されなかった。また、DR5::GUS遺伝子導入株を用いたオーキシン分布の解析では、GUS活性はコントロールにおいて6日間の間、維管束に属する細胞でのみ確認できたのに対し、重り処理24時間後には維管束に接するIPCにおいても活性が見られ、2-5日間の間に中間部への連続的な活性の伸展が観察された。また、PIN1::GUSの発現は横断切片においてDR5::GUSと類似した領域において変遷が見られ、縦断切片におけるPIN1タンパク質の免疫検出の結果、PIN1タンパク質は維管束内形成層と維管束の木部柔細胞の原形質膜基底部で確認され、2-3日目には維管束間領域でも確認できるようになった。さらに、筆者らは化学的な細胞壁成分の内、一連の事象の間最も多く含まれると考えられる4成分 (低メチルエステル化ペクチン、ヘミセルロースキシログルカン (XG) 、カロース、ヒドロキシプロリンに富むエクステンシン (HRGPs) ) を選び、局在の時間的、空間的な変化を調査した。その結果、最も重要なヘミセルロースの一つであるXGと構造タンパク質HRGPs2日目までは維管束領域でのみ見られ、3日目以降には維管束間領域で見られたことから、この2成分の時間的、空間的な変化はIPCの維管束間形成層への漸進的な変遷と相関していると考えられ、シロイヌナズナの形成層発生にとっての指標として用いられる可能性が示唆された。

最終的に、維管束間形成層へと分化中のIPCにおいて見られる一連の細胞事象は以下のように結論付けられた。 (1) IPCにおけるオーキシン蓄積がIPCの分化の方向性を変化させること。IPCの原形質膜基底部における (2) PIN1遺伝子発現と (3) PIN1タンパク質の極性をもった局在。維管束間形成層発達中の (4) 並層分裂と (5) 化学的な細胞壁成分変化である。                            興味をもたれた方は是非ご参加ください。   村本雅樹