2015年度後期 第2回 細胞生物学セミナー(唐原研)

106日(火)17:00- 総合研究棟6階 クリエーションルーム

SAUR36, a SMALL AUXIN UP RNA gene, is involved in the promotion of leaf senescence

in Arabidopsis

Hou, K., Wu, W., Gan, S.2013

Plant Physiol. 161: 1002-1009

 

初期のオーキシン応答遺伝子であるSAUR36は、シロイヌナズナにおける葉の老化に関与する。

 

葉の老化は葉の生長の最終段階であり、遺伝的にプログラムされた過程である。この間に光合成関連遺伝子を含む大多数の遺伝子の発現量が低下する。シロイヌナズナのトランスクリプトーム解析により老化時に発現上昇する遺伝子群として老化関連遺伝子群(SAGs)が知られる。SAGsには転写因子やシグナル伝達因子、プロテアーゼ等の異化酵素、糖やアミノ酸のトランスポーターをコードする遺伝子が含まれている。老化においてオーキシンは促進的・抑制的のいずれの効果を持つかははっきりしていないが、SAGsにはSAUR36SAG201)が含まれる。本研究では、葉の老化におけるSAUR36の役割について調べた。

SAUR36の転写産物量が若い葉では非常に少なかったが、老いた葉と完全に成熟した葉では老化の進行に伴い増加した。また、SAUR36プロモーターに結合させたGUSレポーター遺伝子を含む形質転換シロイヌナズナを作製し、GUS染色を行ったところ、老化した葉のみ染まり、老化していないものは染まらなかった。SAUR365´非翻訳領域(UTR)にはオーキシン応答配列(TGTCTC)が存在する。オーキシンによるSAUR36の誘導能を調べるために3週齢の野生型植物をNAAで処理したところ、添加30分後に急速にSAUR36の発現量が増加し、6時間後には高い値に達した。SAUR36T-DNAを挿入したノックアウト系統では、生長と発達の初期段階における異常はなかったが野生型に比べて明らかに葉の老化が遅れた。野生型の5番目の葉で老化が見られた植物体と同じ齢のノックアウト系統では3番目の葉がまだ緑色の状態であった。葉の生存率曲線では、ノックアウト系統の葉は34日間老化の開始が遅かったことが示された。野生型及び変異体の葉の50%が老化するのは、それぞれ発芽から34日後及び41日後であり、それはつまり老化が7日遅延したことを意味する。また、ノックアウト系統の葉の表皮細胞は野生型よりも大きかった。ノックアウト系統における大きな葉の面積は主に細胞の大きさによるものであり、SAUR36は細胞の伸長を抑制することが分かった。

 SAUR363´UTRには転写産物の安定化に関わるDSTエレメントがある。このエレメントとSAUR36自体の葉の老化における役割を解析するため、糖質コルチコイド(DEX)処理により誘導的に過剰発現させた。その結果DSTエレメントを持たない系統ではSAUR36の転写産物が大量に蓄積していたが、DSTエレメントを持つ系統では蓄積は見られなかった。DSTエレメントを持つ系統では野生型と比べて葉に変化が見られなかったが、DSTエレメントを持たない系統では葉が黄化した。後者では葉のクロロフィル含有量が有意に減少し、光化学系の最大量子収率を反映するFv/Fmの値が著しく減少し、高レベルのイオン流出が見られた。以上より、SAUR36の発現誘導は葉の老化を誘導する効果があり、DSTエレメントはSAUR36の転写産物の代謝回転を速めると考えられる。

興味を持たれた方は是非ご参加ください。     高橋郁佳