2015年度後期　第3回　細胞生物学セミナー　（唐原研）

日時：10月13日（火）17:00～　　場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

Ethylene inhibits lateral root development,

increases IAA transport and expression of PIN3 and PIN7 auxin efflux carriers

Lewis, D.R., Negi, S., Sukumar, P., Muday. G. K. (2011)

Development 138: 3485-3495

エチレンは側根の発達を阻害し、IAAの輸送及びPIN3、PIN7IAA排出キャリアーの発現を増加させる。

側根形成のプロセスは、一次根の内鞘細胞が活性化し、新しい側根の生長点形成を誘導することから始まる。側根は高次の根を枝分かれさせ、究極的にはそれによって根系の構築及び植物全体の適応度が規定される。オーキシンは静止状態の内鞘細胞を活性化させることによって側根形成を開始させ、側根の伸長を促進する。従ってIAAの適切な合成・シグナル伝達・輸送は根形成のために必要である。先行研究では、エチレンやその前駆体であるACCが側根形成を阻害することが示されている。一方でエチレンは側根形成開始の初期段階を阻害し、オーキシン輸送を変化させるので、オーキシンとの相互作用によって、ACCによる根の分岐抑制を制御する可能性が示唆されている。そこで本研究では根形成に影響を及ぼすエチレンの機構を遺伝的及び分子レベルでのアプローチにより同定することを目的とした。

植物材料としてはシロイヌナズナ（Arabidopsis thaliana　(L.) Heynh.）の変異体（etr1-3, ein2-5, aux1-7, eto1-1, lax3-1, aux1-7, lax3-1, pin3-1, pin7-1, tir1-1） 及び野生型Columbia(Col) を用いた。

根端においてACCによりオーキシン誘導性遺伝子(DR5:LUCレポーター)の発現が増加したが、側根形成領域では発現量は減少し、根全体で遊離IAAは減少した。そしてエチレン合成阻害剤であるAVGはオーキシン依存性遺伝子発現上で逆の作用を示した。これらの結果は根の発生においてACCはオーキシン分布を変化させることにより影響を及ぼしていることを示唆した。

オーキシンの取り込みや排出を行うタンパク質が欠損したaux1, lax3, pin3, pin7, abcb19は、ACC処理による側根形成阻害とオーキシンの取り込みに対する感受性が低かった。対照的にpin2, abcb19変異体はACC処理に対して野生型と同じような感受性を示した。またACCやIAAで処理すると、それぞれETR1やEIN2（エチレンシグナル伝達）依存的、またはTIR１(オーキシン受容体)依存的な方法で、オーキシン輸送タンパク質の転写が増加することがこれらの変異体を用いて示された。これらの転写物及び側根発達段階においてのACCの影響がtir1変異体でも見られることからこの一連の流れには独立したシグナル伝達ネットワークがあることが示唆された。

IAA流入およびIAA排出の阻害剤 (それぞれNOAとNPA)の存在下におけるACCの側根形成とオーキシン輸送への影響を調べた。その結果両阻害剤では側根数を減少させたが、ACCとNPAを組み合わせて処理した個体では根形成の抑制が減少した。対照的にACCとNOAを組み合わせて処理した場合、またはエチレンを過剰生産する変異体eto1-1にNOA処理した場合は、それぞれACCや差異の効果は見られなかった。

エチレンに対して非感受性である変異体etr1やein2は側根形成阻害においてNOA処理に対して弱い反応を示した。ACCによって促進される求頂的なオーキシン輸送は、NOA処理で有意に減少した一方でNPAでは減少しなかった。これらの結果はACCによるIAA輸送促進においてはオーキシン流入の役割が強いことを示唆しているが、この過程においてはより複雑なオーキシン排出の役割があることも示しており、根の分岐とオーキシン輸送に対するACCの影響はNPA-感受性、非感受性の経路に各々寄与していることが示唆された。

またIAA輸送にはIAA流入キャリアー及び排出キャリアーの遺伝子、それぞれAUX1及びPIN3, PIN7のACCの転写産物にACCが与える影響を定量的PCRで調べた結果、ACC処理によりいずれの転写物も増加した。これらの輸送タンパク質の発現の局在に対するACCの影響を蛍光レポーターのGFPまたはYFPを用いて調べた。その結果対照区では側根原基形成部の下部の位置でPIN3-GFP及びPIN7-GFP蛍光が減少していた。一方でACC処理した場合この局所的な発現減少が消失し、発現レベルが根の中央部全体でむらなく増加していた。

についてACCまたはAVGによって輸送タンパク質のGFP、YFP蛍光を調べたところCC処理後各蛍光は増加し、AGV処理後の各蛍光は減少した。このことからもACC輸送を促進するというPIN3やPIN7の役割は一貫していた。またACC処理はPIN3-GFP、PIN7-GFP蛍光の枯渇の局在化を無効にし、通常側根原基形成部位下で見られこれらの結果からACC処理はPIN3-GFP、PIN7-GFPの発現を全体的に増加させ、側根形成に必要な局所的なオーキシン蓄積を妨げることが示唆した。

興味をもたれた方は是非ご参加ください。　　森田 一輝