2015年度後期 第4回 細胞生物学セミナー(唐原研)
10月20日(火)17:00- 総合研究棟6階 クリエーションルーム
The potassium transporter OsHAK21 functions in the maintenance
of ion homeostasis and tolerance to salt stress in rice
Shen, Y., Shen, L., Shen, Z., Jing, W., Ge, H., Zhao, J., Zhang, W.
Plant, Cell & Environ 27,1-14
カリウムイオン輸送体OsHAK21は塩分ストレス下でイネのイオン恒常性維持と塩分耐性に機能する
塩分ストレス下において植物の生存のために重要な細胞内のカリウムイオンの恒常性はK+チャネルや輸送体で調節されている。K+は植物中で豊富に含まれる無機陽イオンであり、細胞膜電位の調節、膨圧操作、細胞生長のような多様な細胞内プロセスで重要な役割を担っている。高親和性K+輸送体(HAK)ファミリーの一部には植物耐塩性の制御において機能していると考えられえているが、生理的メカニズムは不明なままである。そこで、本研究では高塩分処理による有意なOsHAK21の発現誘導、またイネの耐塩性におけるOsHAK21の関与について報告する。
材料として、イネ(Oryza sativa L. ssp. japonica cv. Nipponbare)の野生型(WT)を対照とし、日本晴を遺伝的バックグラウンドに持つoshak21変異体を用いた。イネを脱イオン水で洗浄した後、2%(w/v)の次亜塩素酸ナトリウムで1時間滅菌した。暗所で30℃、2日間湿潤ガーゼ上に保持した後播種し、明期14 h・暗期10 hで22℃の条件下で14日間生育させた。まずOsHAK各種(OsHAK1, 2, 5, 8, 9, 11, 12, 13, 17, 18, 21)のqRT-PCRを行った結果、OsHAK21の発現が塩分ストレス下で最も劇的に増大した。この結果からOsHAK21が塩分ストレスに対する反応に関与している可能性が示唆された。またTos17を挿入することでOsHAK21の発現を完全に抑制したoshak21変異体と野生型の14日齢のイネを120 mMのNaClを含んだ水耕法の培地で5日間生育させた結果、oshak21変異体は野生型のイネと比較して大きく生長が妨げられ、塩分ストレスに感受性を示した。OsHAK21発現が著しく阻害されたOsHAK21のRNAi遺伝子導入系統(RNAi3とRNAi4)も作出し、これらと野生型(WT)および、oshak21のシュートや根のNa+およびK+含有量を定量した。その結果、塩分ストレス下でのosaka21とRNAi系統のNa+取り込み率はWTのものより非常に高く、対照的にK+取り込み率は非常に低かった。これらの結果からOsHAK21が塩分ストレス下でイネのNa+/K+恒常性に不可欠となるK+の吸収や分布に機能していることが示唆された。OsHAK21の機能を特徴づけるため、OsHAK21と高い相同性を持ち、シロイヌナズナArabidopsisの根においてK+取り込みにおいて重要な役割を果たすAtHAK21の欠損変異体であるathak21にpSuper1300ベクターを用いてOsHAK21を発現させるよう形質転換させたathak5/OsHAK株を作出し遺伝的相補性のテストを行った。その結果、1 µM、10 µMのK+を含む培地において根長、生重量共にathak21変異体が有意に減少したのに対し、athak5/OsHAK株はシロイヌナズナ野生型と比べて同程度まで回復した。このことからOsHAK21がK+輸送体としてK+の取り込みに機能することが出来るということが示された。また、タマネギ表皮細胞を用いてOsHAK21-EGFPの一過的発現により細胞内局在を調べたところ、シグナルは細胞膜に局在した。また、OsHAKプロモーターGUS融合タンパク質の発現株を作出しGUS染色を行ったところ、木部柔組織と内皮細胞で発現していることが示唆された。
これらの結果から、OsHAK21は細胞膜からのK+吸収を媒介し、塩分ストレス下でNa+/K+の恒常性の維持に重要な役割を果たしている可能性があることが示された。
興味を持たれた方はぜひご参加ください。 湊口 楓