2015年度後期　第5回　細胞生物学セミナー（唐原研究室）

10月27日（火）17:00~　総合研究棟6階　クリエーションルーム

Seed-to-Seed-to-Seed growth and development of Arabidopsis in microgravity

Link, B. M., Busse, J. S., Stankoric, B. (2014)

Astrobiology 14:866-875

微小重力下における種子から種子への3世代に渡るシロイヌナズナの成長と発達

　重力と植物の関係は200年以上前から研究されており、植物は宇宙開発計画の早期から実験で使われてきた。微小重力環境下において、種子から植物を生育し、再び種子を得るという実験はMerkysとLaurinaviciusによって初めて成功されたが、種子は生存可能であるにもかかわらず、種子タンパク質に乏しかった。これは、重力自体の不足ではなく、微小重力環境の厳しさが原因であったと考えられた。生育環境を改善するため、Wisconsin-Madison大学は国際宇宙ステーション（ISS）に設置するグロースチャンバーADVanced AStroCulture（ADVASC）を開発した。本研究は、ISSのADVASCにおいて、シロイヌナズナ（Arabidopsis thaliana）の種子を生育させ種子を採取し、引き続き生活環を繰り返し、種子を得て、植物の外部形態、細胞、さらに分子レベルでの変化を観察することを目的とした。

　微小重力環境下において植物体はISSのADVASC装置で生育され、地上対照実験はWisconsin大学で行われた。実験条件はどちらも同じで、16時間の明期と8時間の暗期、温度22℃、湿度70％を維持し、45日間生育させた。種子は1%（w/w）グアーガムを含むガーゼに付けられ、栄養は1/2強度のHoagland溶液によって供給された。採取された種子を固定し、切片の顕微鏡観察を行った。光学顕微鏡レベルでは、器官における細胞数や大きさは宇宙と対照区の種子の間に有意差はなく、どの切片にもデンプン粒は見られなかった。胚や種子の発達は宇宙においてほぼ正常であった。2つの処理区での唯一の違いは、宇宙種子においてタンパク粒の鮮明度が乏しいことであった。この微細な構造を観察するため、透過型電子顕微鏡（TEM）観察を行った。TEMによって得られた画像から、2つの処理区の重要な差は、切片上で宇宙種子における細胞中のタンパク粒が占める領域の割合の減少であることが分かった。タンパク粒は対照区では種子の35.9%±4.0%を占めており、宇宙種子では細胞の16.3%±1.0%を占めていたことから、宇宙種子は対照区より約55%タンパク粒の領域が少ないことが分かった。しかし、領域にはタンパク粒の密度の差異は考慮されない。次に、SDS可溶性タンパク質レベルを測定した。地上対照区種子と宇宙種子のどちらも購入時の種子と比べ、90.9%±2.3%、82.0%±2.0%と低いレベルを示した。発芽率を調べると、宇宙種子（92.5%, n=40）はタンパク質含有量が低いにも関わらず、対照区種子（82%, n=40）よりも発芽率が高かった。これより微小重力環境下でも種子の発達は健全で生存可能であることが示唆された。また、先行研究では、宇宙における対流の欠如は、植物を低酸素下におき、タンパク粒の大きさやその中身の充填を減少させることなどが示唆されている。分枝の角度を測定すると、宇宙で生育したシロイヌナズナにおいて、花序の分枝と長角果は花序の茎とほぼ垂直な角度を形成した。一方、対照区の植物はいずれも上向きの角度であった。これより、重力は分枝と長角果の角度を決定する重要な要因であることが示唆された。次に、遺伝子発現解析を行うため、4週間齢の地上対照区植物と宇宙植物両方の葉からRNAを抽出した。微小重力下で生育したシロイヌナズナは地上対照区と比べ、515の遺伝子（全遺伝子の6.2%）の発現が増加し、1613の遺伝子（全遺伝子の19.4%）の発現が減少することが分かった。観察された発現パターンは他に相互作用している最適でない環境条件、例えば、宇宙において無酸素状態に置かれた根の領域で部分的に誘導された可能性もあるため注意が必要であり、結論を導くためには追加の実験が必要である。

興味を持たれた方はご参加ください

山田茉由