2015年度後期　第6回　細胞生物学セミナー（唐原研）

11月10日（火）17:00～　総合研究棟6階　クリエーションルーム

Transcript profiles in cortical cells of maize primary root during ethylene-induced

lysigenous aerenchyma under aerobic conditions

Takahashi, H., Yamauchi, T., Rajhi, I., Nishizawa, N K., Nakazono, M. (2015)

Ann Bot 115: 879-894

好気性条件下におけるエチレン誘導性の破生通気組織形成中に見られる

トウモロコシ一次根の皮層細胞内転写プロファイル

植物における内部の通気は浸水期間の間、生存するために重要であり、シュートと根の間では連続したガス空間が形成される。この空間は通気組織と呼ばれ、破生通気組織の場合は皮層細胞の列が細胞死により崩壊および溶解することにより形成される。植物ホルモンのエチレンは破生通気組織形成の役割を持っていることが知られており、エチレン前駆体物質で処理すると、好気性条件下のトウモロコシやコムギの根でも通気組織が形成されることが知られる。一方で、トウモロコシ (Zea mays) の根にエチレンの作用点阻害剤である1-MCPで前処理することで、浸水条件下での通気組織形成が妨げられることが知られる。これらの結果は、連続した浸水状態でのトウモロコシの根ではエチレン反応性のプログラム細胞死 (PCD) によって皮層細胞で通気組織形成が起きており、エチレンが浸水条件下において破生通気組織形成に不可欠であることを示唆している。加えて、エチレンは好気性条件下においてトウモロコシの皮層細胞でのPCDを誘発したことから、この場合には好気条件下であっても破生通気組織形成に関わる遺伝子の発現が特異的に制御されている可能性が示唆されている。この可能性を検討するために我々はマイクロアレイ解析により、好気性条件下でエチレン処理したトウモロコシ一次根の皮層細胞において転写プロファイルを調べ、いくつかの遺伝子を選びqRT-PCR法により皮層における浸水誘発性の発現を調べた。また、エチレン誘導性の通気組織形成と活性酸素種 (ROS) の関与を調べるためにDPI (NADPH阻害剤) 処理による影響を調べた。

方法として、3日齢のトウモロコシの実生を好気性条件で6時間エチレン処理し、レーザーマイクロダイセクションによって一次根の皮層細胞を単離した。その後、転写プロファイルをマイクロアレイ解析によって調べた。またDPI実験では1 ppmのエチレンまたは40 mMのDPI処理を行ったサンプルよりTotal RNAを抽出し、qRT-PCR法によって遺伝子の転写レベルを調べた。

マイクロアレイ解析の結果、エチレン処理下で223の遺伝子の発現がエチレンにより皮層において変化しており109の遺伝子が上方制御され、114の遺伝子が下方制御されていた。これらのうち、12の細胞壁修飾遺伝子と7のタンパク質分解関連遺伝子が上方制御されていた。また、エチレンのシグナリングに関わる遺伝子の転写レベルをqRT-PCRで調べたところ、根の全ての組織 (中心柱の細胞、皮層細胞、外部細胞層) において増加していることが明らかになった。細胞壁修飾とタンパク質分解に関連している遺伝子の転写レべルが皮層細胞で特異的に増加していた。加えて、DPI処理を施したサンプルにおいてはエチレン誘導性の遺伝子PG, EXPB3, EXPB1Aの発現が抑制されたが、それ以外の通気組織形成で上方制御されたエチレン誘導性の遺伝子の発現に変化は見られなかった。

細胞壁修飾とタンパク質分解に関与するいくつかの遺伝子の発現が、エチレン処理した好気性条件下での皮層細胞において特異的に制御されていたことから、トウモロコシの一次根では組織全体でエチレンが感知されており、その下流の皮層細胞内でROSによる部分的に調節された遺伝子発現を介して皮層細胞特異的にPCDが制御されていることが示唆された。また、DPI実験からエチレン誘導性の通気組織形成にはROSに依存的な調節経路と非依存的な調節経路があることが示唆された。

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