2015年度後期 第7回 細胞生物学セミナー (唐原研)

日時:128日 (木) 1700~     場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Neighboring parenchyma cells contribute to Arabidopsis xylem lignification,

while lignification of interfascicular fibers is cell autonomous

Smith, R. A., Schuetz, M., Roach, M. Mansfield, S. D., Ellis, B., Samuels, L. (2013)

Plant Cell 25: 3988-3999

隣接する柔細胞はシロイヌナズナの木部リグニン化に寄与するが、

維管束間繊維のリグニン化は細胞自律的である

 

 リグニンは水を輸送する管状要素や支持に関係する繊維のような木部細胞の二次細胞壁を強固にする複雑なフェノールのポリマーであり、樹木の木部において最も明瞭な物質である。リグニン前駆体であるモノリグノールの生合成はフェニルプロパノイド経路を通して生じており、どのようにモノリグノールが細胞内の合成部位から重合する特定の細胞壁領域へと輸送されるのかはあまり理解されていない。二次細胞壁におけるセルロースやヘミセルロース多糖類の沈着は非損傷のプロトプラストをもつ生きた細胞を必要とするため、モノリグノールの沈着についても細胞のプログラム細胞死以前に開始されることが示唆されている。しかし、木部細胞培養系において、管状要素のリグニン化は管状要素の細胞死の後も進行していることが確認されており、その正確なタイミングは知られていない。死後のリグニン化が示されたことから、リグニン化した細胞に隣接する非リグニン化細胞が重合のためのモノリグノールを合成し、リグニン化細胞へと輸送しているのではないかとする”good neighbor”仮説が考えられた。この仮説は複数の種において、リグニン化した木部細胞に隣接する非リグニン化細胞内でモノリグノール生合成遺伝子が発現することからも支持される。本研究の目的は、管状要素のオートラジオグラフィを用いてリグニン化のタイミングとモノリグノールの空間分布を調べるとともに、肥厚した二次細胞壁をもつ複数の細胞型においてモノリグノール産生を減少させることで”good neighbor”仮説を直接的に調べ、非リグニン化隣接細胞がそれを補完することができるか確認することである。

 実験材料には、シロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana) を用いた。実生は1/2強度のMurashige Skoog 培地上で、常に明期の条件で7日間生育した。オートラジオグラフィでは、実生の根を0.2 Mのスクロースと12.5 µCiL-[2,6-3H]Phe (0.9 µM Phe) 存在下で室温で、2 hインキュベートし、3H-Pheの代謝をフェニルプロパノイド生合成に限定するために、タンパク質翻訳阻害剤シクロヘキシミドを用いた。モノリグノールの強い放射標識の分布は細胞壁や細胞の周囲に見られ、さらに二次細胞壁に特異的に見られるのか否か明らかにするため、透過型電子顕微鏡を用いたオートラジオグラフィを行った。その結果、放射標識の分布は二次細胞壁内において強く見られ、正常な細胞質をもつ細胞の壁において見られたことからリグニン化が細胞の死後にのみ生じる現象ではないことが示された。しかし、管状要素の細胞質や液胞内で標識が見られなかった。そのため、プログラム細胞死の前後ともに細胞壁へのモノリグノールの沈着が生じるのであれば、細胞自身か、隣接する細胞または両方がモノリグノールを補っているのかどうかは重要である。35Sプロモータを用いてモノリグノール生合成遺伝子CCR1 (CINNAMOYL CoA-REDUCTASE1) を抑制するpro35S:miRNA CCR1 を導入した植物では、リグニンと結合する塩基性フクシンの蛍光は共焦点顕微鏡下で見られなかったのに対し、管状要素と繊維において特異的に発現するCELLULOSE SYNTHASE7/IRREGULAR XYLEM3 (CESA7/IRX3) のプロモータを用いたproCESA7:miRNA CCR1 を導入した植物の解析を行ったところ、野生型と同様の蛍光を示した。この結果は、管状要素内でのモノリグノール産生が失われても、隣接する細胞がそれらの管状要素における二次細胞壁のリグニン化を補う能力を有していることを示している。花茎の解析にはグロースチャンバー内で21℃、16/8-h light/dark の光条件下で2ヶ月間生育した植物を用いた。フロログルシノール染色された花茎横断切片の観察では、pro35S:miRNA CCR1 導入植物においては全細胞型で染色が見られなかったのに対し、proCESA7:miRNA CCR1 導入植物の木部内部の管状要素や木部繊維のようなリグニン化した細胞が染色された。一方で、proCESA7:miRNA CCR1 導入植物の維管束間繊維内では染色が見られなかった。このことから、管状要素と木部繊維においては隣接する細胞によりリグニン化が補われているが、維管束外の繊維においては細胞自律的なリグニン化のメカニズムが用いられていることが示された。  

 興味をもたれた方は是非ご参加ください。   村本雅樹