2015年度前期　第2回　細胞生物学セミナー（唐原研究室）

5月26日（火）17:00~　総合研究棟 クリエーションルーム

Mizuta, Y., Kurihara, D., Higashiyama, T.（2015）

Two-photon imaging with longer wavelength excitation in intact Arabidopsis tissues

Protoplasma DOI 10.1007/s00709-014-0754-5

無傷のシロイヌナズナ組織における長波長励起による二光子イメージング

生物の生体内イメージングは生命現象を研究する上で重要なツールである。蛍光プローブを用いた実験手法と画像処理技術の近年の発展が細胞内レベルでの動的な現象を明らかにしている。細胞内標識としてGFPを例とする多様な蛍光タンパク質（FP）は分子生物学的な実験において広く使用されている。またこれらFPを用いた観察のために、共焦点ピンホールが搭載された単光子共焦点顕微鏡が開発された。これは高光分解能を有するが、組織の深部イメージングには適していない。そこで、この問題点を解消するために二光子励起顕微鏡（2PEM）が開発された。2PEMは多光子励起の原理を基にして、生体内の非侵襲的な深部イメージングを行うレーザー走査顕微鏡である。これまでに動物の心臓や脳などの組織の深部イメージングが報告されている。しかしながら、植物組織への2PEMの使用手法はクロロフィルなどの植物特異的な自家蛍光や動物組織よりも高密度の組織構造のために困難であり、さらに多重光散乱構造は画像の透明度を減少させることが報告されている。本研究では、無傷の生きたシロイヌナズナ組織の深部イメージングにおける最適の励起波長およびFPを特定することを目的とした。

材料として、シロイヌナズナ（Arabidopsis thaliana ( L. ) Heynh.）の野生型（WT）としてCol-0株 およびLAT52p::FPs (FP: mTFP1, sGFP, Venus, TagRFP, mRFP)、RPS5Ap::tdTomato-LTI6b、GFP-mTalin をもつ形質転換体を使用した。種子は22℃の24時間明条件下で寒天培地を用いて発芽させた。Metro-Mix 350 soilと培養土の混合土に移し、16時間明8時間暗の長日条件下で生育させた14日齢の芽生えを実験に使用した。この14日齢の花粉、根端、雌しべ等を2PEMを用いて観察した。最初に二光子励起波長と植物特異的なクロロフィルの自家蛍光との関係を調べるためにGFP-mTalinの葉柄を単光子（488 nm）と二光子（1000 nm）励起下で観察した。単光子励起の場合、クロロフィルの自家蛍光のためにmRFP（蛍光ピーク607 nm）などの赤色FPの蛍光が妨げられたが、二光子励起では自家蛍光が抑えられ、より精細な赤色FPの蛍光観察が可能であった。次に観察に最適な励起波長を調べるために、同変異体の葉表面を二光子励起での異なる波長（800, 900, 1000 nm）を用いて観察した。3つの励起波長のうち、1000 nmの場合、570-620 nmにおける葉緑体の自家蛍光を抑えつつも、GFPシグナルは他の励起波長よりも明瞭であった。続いて葉緑体が未成熟である花粉および根端部を観察した。花粉粒および根端において葉緑体以外の他の細胞由来物質の自家蛍光がみられたが、1000 nmの場合最も抑制された。対照的に、植物体自体の自家蛍光により妨げられるTagRFPやtdTomatoの蛍光は1000 nmにおいて最も明瞭となった。LAT52p::FPホモ接合体由来の花粉粒における800, 900, 980, 1000 nmの各励起波長下の各FPの蛍光スペクトルは980, 1000 nmの場合、単一の狭いピークを示した。最適なFPの特定のための花粉粒における5つのFPの同時励起観察では、どの励起波長下（800, 850, 900, 920, 950, 980, 1000 nm）でもsGFPとTagRFPが安定した蛍光を示した。

これまでの結果を踏まえた上で、単光子および二光子励起におけるRPS5Ap::H2B-sGFPおよびRPS5Ap::tdTomato-LtI6b根端のX-Y方向の観察とX-Z方向の深部イメージングの比較を行った。結果としてRPS5Ap::H2B-sGFPは単光子および二光子励起両方で不明瞭であったが、RPS5Ap::tdTomato-LtI6bは一つ一つの細胞まで確認できた。二光子励起下では単光子励起よりもクリアであり、X-Z方向においてもより深部まで高い分解能を示した。次に助細胞、卵細胞、中央細胞を異なるFPで標識した雌しべにおける深部イメージングの比較を行った。二光子励起では単光子励起下で明確ではない助細胞と卵細胞の細胞核を確認することができた。また、受粉1日後の雌しべ内部の分裂した卵細胞核をそれぞれ識別することもできた。

　以上の結果より単光子励起と比較して、二光子励起は植物組織の生体内イメージングにおいてより有効であるといえる。また、適したFPと励起波長を選択することで、これまでよりもさらに深部の生体内イメージングが可能であることを示唆している。特に980, 1000 nmといったより長い励起波長下ではクロロフィル等の植物特異的な構造物由来の自家蛍光が抑えられ、特にオレンジ蛍光タンパク質であるTagRFPとtdTomatoを用いることが効果的であるといえる。

興味をもたれた方は是非御参加下さい。　　　　松本 惇