2015年度前期 第1回 細胞生物学セミナー (唐原研)

日時:512日 (火) 1700~   場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Flowering as a Condition for Xylem Expansion in Arabidopsis Hypocotyl and Root

Sibout, R., Plantegenet, S., Hardtke, C. S. (2008)

Curr. Biol. 18: 458-463

シロイヌナズナの胚軸と根における木部拡大の条件としての花成

 

 木部を通した水と溶質の輸送は最終的な植物の生長に影響するため、維管束の放射方向へ拡大する二次生長は極めて重要な現象である。先行研究において、花茎とは異なり伸長との関連を切り離すことができるという利点と樹木に似た木部発達をすることから、植物の胚軸は二次生長の研究に適したモデルであることが提唱されているシロイヌナズナの胚軸では最初の全維管束組織の比例的な二次生長の後に、木部拡大段階と繊維分化へと移る。しかし、この比例的な段階から木部拡大段階への変遷を制御している因子は不明である。本研究ではシロイヌナズナの胚軸における二次生長の実際の変化と根の二次生長との連携を観察した。

 実験材料にはシロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana (L.) Heynh.) を用い、2-4日間4で低温処理後、常に明期の条件で生育した。胚軸から横断切片を作製後、Wiesner 染色またはFASGA 染色により組織化学的な染色を行った。根は4%パラホルムアルデヒドで固定、エタノールで脱水、Histovit 樹脂で包埋し、厚さ12 µmの横断切片を作製後、トルイジンブルーで染色した。光学顕微鏡下で横断切片像を撮影し、ソフトウェアImageJを用いて、胚軸全体、皮層、篩部、木部、繊維領域の横断面積を測定した。この解析には発芽後 (dag) 28日の自然界の32系統種を用いた。篩部に対する木部の面積 (木部/篩部) と繊維分化は発達的な比例生長から木部拡大段階への変遷の指標となる。

解析の結果、木部/篩部比の値が低く、根が短いUk-1に注目した。Uk-1オーキシンとブラシノステロイド経路の接続に関係するBRXの機能を欠損しており、BRX導入遺伝子によって補完することで維管束細胞の増加を回復することができたが、木部/篩部比に変化は見られなかった。Uk-1の木部/篩部比を定めている因子を特定するために、機能的なBRX対立遺伝子をもち、強い維管束増加と早期の木部拡大段階移行を示すSav-0株との交配に由来する組換え自殖系統 (RIL) 集団のQTL解析も行った。木部/篩部比のQTL解析の結果、5番染色体上に主要な非常に有意なQTLが見られ、繊維含有量の主要なQTLが一致したことから、木部拡大と繊維分化が遺伝的に関連付けられた。このQTLは花成に関する中心的な負の制御因子であるFlowering Locus C (FLC)とされた。栄養生長期にFLCの発現が増加すると花成が遅延することが知られており、実際にUk-1のロゼットにおいてFLC発現はSav-0のものよりもおよそ9倍高かったことから、FLCの発現レベルの違いによる木部/篩部比と繊維含有量に関するRILの多様性が示唆された。またUk-1 × Sav-0RIL集団において開花時期、木部/篩部比、繊維含有量の3形質の間に強い相関が見られ、開花時期と木部拡大段階への移行が関連付けられた。さらに、4日間の間隔を空けて同一条件下で3実験区に分けてシロイヌナズナの生育を開始し、最初に花序茎が生じた区より4日または8日若い区の植物から胚軸を採取後、マイクロアレイ解析を行った。その結果、花成の転写開始は花芽形成より一週間以上先行することを考慮すると、木部形成に関する遺伝子の発現上昇は花成誘導後に生じることが示唆された。花成が胚軸の木部拡大の条件であるとする考えは、花成が遅い系統種の解析において花成よりも先に木部拡大を示したものが見られなかったことからも支持され、木部拡大は単純な齢の問題ではないことが示唆された。CONSTANS (CO) は開花時期の中心的な制御因子である。coヌル変異体の篩部においてデキサメサゾン (dex) 誘導性CO活性を起こす遺伝子導入株を利用し、10または13 dagの間dex処理を行った実験では、僅かに開花が促進され、花芽が確認できる20 dagには明確な二次生長の増加が示され、COの花芽形成情報伝達経路の一過性の活性化は木部拡大段階への変遷を引き起こすことがわかった。この反応がシュートからのフィードバックを必要としているか調べるために、Sav-0の台木とSav-0またはUk-1の穂木を用いて6 dagの時点で接ぎ木を行った。20 dagの時点でSav-0穂木の植物はUk-1穂木の植物よりも有意に高い木部/篩部比を示し、花成の遅いシュートは木部の拡大を抑制していることが示され、シュートからの花成関連シグナルは胚軸と木部における木部拡大を制御しているという仮説が支持された。

興味をもたれた方は是非ご参加ください。   村本雅樹