2015年度前期　第4回　細胞生物学セミナー（唐原研究室）

6月9日（火）17:00-　総合研究棟6階　クリエーションルーム

Brassica rapa plants adapted to microgravity with reduced photosystem I

and its photochemical activity

Jiao, S., Hilaire, E., Paulsen, A, Q., Guikema, J, A.（2004）

Physiol. Plant. 122: 281-290.

アブラナは微小重力に順応したものの、光化学系�氓ﾌ構成タンパク質の発現及びその光化学的活性が低下した

　長期のスペースミッションにおいて二酸化炭素を消費して酸素を放出する光合成はライフサポートシステムの一部として不可欠であるため、微小重力環境が光合成に与える影響が研究されてきた。本研究では、スペースシャトル‘Columbia’における米・ウクライナ共同開発の一環として宇宙で生育したアブラナの葉緑体の構造変化とチラコイド膜の統合性及び光合成複合体の機能の変化について調べた。

発芽率は宇宙試料の方が低かったが、シュートの高さ及び生重量については宇宙試料の方が高かった。その結果、栽培容器あたりの生重量に関して両実験区間で有意差はなかった。容器全体でまとめた場合の生長率は地上のものと遜色なかったことから、アブラナは微小重力環境に適応したと考えることもできる。また、子葉組織のクロロフィル総含有量とタンパク質含有量は両実験区の試料の間で大差はなかったが、Chl a/b率に関しては宇宙試料の方が著しく高かった。この傾向は強光下等のストレス条件下で見られることから、アブラナが微小重力環境下でストレスを受けていたことが示唆される。微小重力環境下における植物体レベルでの形態学的異常は見られなかったが、細胞構造レベルでは有意な変化が見られた。地上試料に対し、宇宙試料では葉緑体の個数が7日齢で23.3%、14日齢で15.4%増加し、ミトコンドリアの個数は7日齢で104.5%、14日齢で137.5%増加した。また、宇宙試料におけるデンプン粒の増加も確認された。25000倍でTEM観察を行ったところ、地上試料の葉緑体はオリーブ型であったのに対し、宇宙試料では卵形もしくは球形を示した。45000倍以上の倍率では肥大化したストロマが観察でき、7日齢と14日齢の宇宙試料では明らかにストロマやグラナの観察頻度が低下した。14日齢の宇宙試料に関しては地上試料に比べてオスミウム化されるプラストグロビュール蓄積量が少なかったことも確認された。さらに、宇宙試料のミトコンドリアはダンベル型もしくはチューブ型に伸長し、分裂像が頻繁に見られた。これらは、葉緑体の機能不全によるエネルギー不足を補うためにミトコンドリアを増加させることで呼吸性代謝を増幅させたからであると考えられる。その他の相違点としては、デンプンの蓄積に起因すると思われる葉緑体の体積増加が宇宙試料で見られたことが挙げられる。

　次に、微小重力環境下での膜構造の変化が光合成複合体の構築に影響したか否かを調べた。ネイティブDM-PAGE実験と、単離チラコイドを用いた電子伝達活性測定により、宇宙試料においてPS�泄｡合体が減少するとともに、PS�氓ﾌ光化学活性が29.8%減少することが分かった。PS�沂yび��をDM-PAGEで分けた後、尿素SDS-PAGEを用いたウエスタンブロッティングより、宇宙試料においてPS�氓ﾌコアペプチドであるPsaAとPsaB、PsaCがそれぞれ29.7、26.9、56.9%減少したのに対し、LHC�氓ｪ14%減少したことが分かった。酸素発生複合体のOEC1は32%、PS��のBサブユニットD2は15%減少した。しかし、D1とLHC��（27 kDa）サブユニットの量はさほど変化しなかった。

以上のことより、本研究では葉緑体に関する多くの生物学的経路が微小重力環境下で変化する可能性が示唆された。しかし、どのようにして微小重力が光合成複合体の特にPS�氓ﾌ構築と機能に影響するのかについては未知の部分が多いため、今後も引き続きこのことについて分子的もしくは生理的により深く理解するための宇宙実験が必要となる。

興味をもたれた方は是非ご参加ください。　　　高橋郁佳