2015年度前期第5回 細胞生物学セミナー(唐原研究室)
6月23日(火) 17:00~
総合研究棟 クリエーションルーム
Phiv-Rootcell: A supervised image analysis tool for rice root anatomical parameter quantification
イネの横断画像の解剖学的特徴を定量化するためのPHIV-RootCellソフトウェアの開発
Lartaud, M., Perin, C., Courtois, B., Thomas, E., Henry, S., Bettembourg, M., Divol, F., Lanau, N., Artus, F., Bureau, C., Verdeil, J. L., Sarah, G., Guiderdoni, E., Dievart, A. (2015)
Front, Plant Sci. doi: 10.3389/fpls.2014.00790
細胞と組織が、特に根においてどのように組織化されて植物機能と相互に作用しているかはストレスへの植物の適応を理解するためには重要である。顕微鏡観察と試料調製の自動化の進歩により、大規模なスクリーニングは比較的容易である。しかし、これらの画像から多くの特徴の測定値や顕微鏡観察データを分析する過程がボトルネックになってしまう。このため、特に生物学的画像処理とデータ収集のための多数のプログラムが開発されている。しかし、これらのプログラムは、特定の生物的試料に非常に特化しており、異なる分野の問題に対しては容易に適応させることができない。そこで開発したこのPHIV-RootCellプログラムでは、画像取得のために効果的な根の処理方法と組み合わせることで、根の各組織を追跡し、細胞層毎に細胞の断面積と数を測定できる。
PHIV-RootCellの有用性を立証するために、我々はイネ (Oryza sativa L.) の遺伝的多様性の研究と、塩分ストレスに対する応答の解剖学的パラメーターの分析を行った。イネは、無菌状態で1/2強度の Murashige and Skoog 培地とNaClを含むディッシュに播種し、6日間育成した。生長した幼根の根端2 cmまでを3%アガロースに包埋し、ビブラトームで根端から0.5 cmのセクションごとに厚さ60 µmの横断切片を作製した。横断面のパラメーターの評価をするために細胞壁の自家蛍光を用いた。落射蛍光顕微鏡下で各々の横断切片を撮影し観察した。この方法により1日100以上の根の切断面を容易に作製し、画像を取得できた。この画像の解析にPHIV-RootCellを用いた。PHIV-RootCellソフトウェアは、ImageJの1.48h、またはそれ以上のバージョンの上で作動するマクロツールセットであり、ソフトウェアの自動検出を修正することが可能で、分析の各々の段階を管理することができる。1枚の画像の解析につき3~5分までに所要時間を短縮できる。このソフトウェアを用いて異なる変種群に属するイネ16品種の10項目の解剖学的特徴を分析した。その結果NaCl存在下で生長したとき、イネの幼根は膨張し、皮層、中心柱の横断面積が増加した。また1細胞層の細胞数が内皮、皮層で増加し、対照的に厚壁組織、周皮、表皮では減少した。また、変種間の有意差はすべての形質で記録された。6日間の幼根でいくつかの変種が区別できることが示された。さらに興味深いことに、ボロ変種 (FR13A) は遺伝学的に近縁であるにもかかわらずAUS変種 (N22) から分離されることが分かった。
ソフトウェアの再現性と結果に関する手動矯正の効果のユーザーによる差を検定するために、日本晴の横断面の同一のデータセットを5人のユーザーが解析したところ、選択した画像のどの形質の分析においても外皮層の細胞数を除いてユーザーによる系統学的に有意な効果がないということが示唆された。以上より、このソフトウェアは、遺伝学的および生理学的な研究において根の解剖学的特徴の多様性を定量的に解析する有用なツールであるといえる。また将来、QTL解析やゲノムワイド関連解析(GWAS)を行うため、あるいはイネの根の様々な状況に対する生理的反応を評価するために、このツールは有効だといえる。
興味を持たれた方は是非ご参加ください。 湊口 楓