2015年度前期　第7回　細胞生物学セミナー（唐原研究室）

7月14日（火）17:00~　総合研究棟 クリエーションルーム

In silico simulation modeling reveals the importance of the

casparian strip for efficient silicon uptake in rice roots

Sakurai,G., Satake, A., Yamaji, N., Mitani-Ueno, N., Yokozawa, M., Feugier, G, F., Ma, F, J.（2015）

Plant Cell Physiol. 59: 631-639.

イネの根からのケイ素取り込みにおけるカスパリー線の重要度を明らかにする

コンピュータシミュレーションモデリング

土壌中に多く含まれるケイ素（Si）は、植物の生長にとって必要不可欠である。植物の中でもイネ（Oryza sativa）は高いSi蓄積を示し、Siが穀物としてのイネの生産性に大きく関わることが示されている。イネの根でのSiの取り込みは受容的なLsi1と能動的なLsi2という二つの異なる輸送体によって仲介される。両輸送体はカスパリー線とともに内皮および外皮の細胞層の細胞膜に局所的に局在している。しかし、（�氈jイネが他の植物と比較して多量のSiをどのように取り込むことができるのか、（��）なぜイネのSi輸送体が特徴的な細胞内局在パターンを示すのか、（�｡）Si取り込みにおけるカスパリー線の役割は何かという疑問は明らかとなってはいない。これらの疑問を明らかにするために、本研究ではLsi2による能動輸送をも説明できるような、単純拡散方程式に基づく発展的な数理的なコンピュータモデルを構築し、イネの根におけるSi取り込みをシミュレートした。

モデル構築には、先行研究で得られたイネの根の木部導管液におけるSi濃度の生体内実験データとモンテカルロ法を用いて各種パラメータを較正した。シミュレーション実験では、根を1.0 mM Si溶液に曝露して60分後までの木部導管液のSi濃度を推定することで各モデルにおけるSi取り込みを比較した。シミュレーションではLsi輸送体の局在、カスパリー線の有無など多種多様な条件を設定し、試行した。最初にSi輸送におけるカスパリー線の役割を評価するために、輸送体とカスパリー線がWTと同様に外皮と内皮に存在するものを正常根とし、カスパリー線が内皮に存在しない設定をNC_en、外皮に存在しない設定をNC_ex、内皮および外皮に存在しない設定をNC_en-exとしてシミュレートした。正常根と比較してNC_en、NC_ex、NC_en-exでは木部導管液のSi濃度が大きく低下した。また、これは根長等のパラメータを変えた場合でも同様の傾向を示した。この結果からカスパリー線がSi輸送に重要な役割を果たすことが示唆された。ただし、外皮および内皮のカスパリー線の存在がSi取り込みに果たす効果は単純に相加的なものではなかった。次にLsi輸送体が外皮と内皮の間（8細胞層と仮定）と内鞘の細胞層のどこかに局在するように配置した168のモデルを構築し、シミュレートした。168のモデル中、正常根と似た局在のモデルが最もSi濃度が高く、外皮にLsi輸送体が存在しないモデル群は低い値を示した。Lsi輸送体はカスパリー線が存在する細胞層で効率的に機能し、特にカスパリー線の外皮での存在がSi取り込みに重要であることが示された。次にLsi輸送体の最適な局在と産生に必要なエネルギーコスト投資の効率を調べるために、Lsi1およびLsi2の産生量および局在がそれぞれ異なる1,296のモデルを構築し、またLsi1とLsi2の相対的な発現コストをα（Lsi2の発現コスト÷Lsi1の発現コスト=α）とし、αの値が異なる際の取り込み効率が最大となるモデルを調べた。結果として個々の最適な条件はα>0.5であるとき、正常根と同様の局在パターンであるカスパリー線をもつ細胞層の内側にLsi2、外側にLsi1が存在するモデルであった。他方、α<0.5であるとき、内皮および外皮にLsi1が存在しないモデルであった。しかし、Lsi2は能動輸送を行うためその発現コストはLsi1よりも高いはずなので、Lsi輸送体の最適な局在パターンは正常根のものであるといえる。

輸送体の局在パターンなどの複数のパラメータを変更したモデル群の比較によって、野生型のイネの根での特徴的な局在パターンおよびカスパリー線の存在はSi取り込みにおいて最も効率的なものであることが裏付けられた。今後は実際の実験データとモデルのデータの差を埋めるためにも更なるモデリングの精細化が必要である。

興味をもたれた方は是非御参加下さい。　　松本 惇