2016年度後期　第1回　細胞生物学セミナー

日時：10月18日（火）17:00~　場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

A clade-specific Arabidopsis gene connects primary metabolism and senescence

Jones, D, C., Zheng, W., Huang, S., Du, C., Zhao, X., Yennamalli, R, M., Sen, T, Z., Nettleton, D.,

Wurtele, E, S., Li, L.（2016）

Front. Plant Sci. 7:983

アブラナ科のクレードに特異的なシロイヌナズナの遺伝子は一次代謝と老化を結びつける

　植物は進化の過程で環境の変化に応答できるような成分を獲得した。機能不明の種特異的な遺伝子がそのような機能を担う可能性が考えられている。その一例のQua Quine Starch（QQS, AT3G30720）はorphan遺伝子であり、一次代謝と環境変化への順応を結びつける成分の1つであり、メッセンジャーとして体内を移動するRNAである可能性が示唆されている。Senescence-Associated and QQS-Related（SAQR）はアブラナ科のクレードにユニークで2千年前に生じたと考えられている。SAQRは主に葉と脈管構造で発現し、その発現は自然な老化過程で増加し、死の前では減少する。本研究ではSAQRがQQSネットワークにおいて働き、老化において一次代謝をストレス応答に結びつける役割を果たすか否か調べた。

著者らのマイクロアレイ解析によってシロイヌナズナのQQS RNAi系統では野生型よりも2倍多くSAQR転写産物を蓄積することが明らかになり、SAQR転写産物蓄積はQQSによるネガティブな影響を受けることが示された。公開アレイデータでは、SAQRの老化とストレスとの関連が示唆された。様々な環境や発達段階でSAQRと共発現する遺伝子群（レギュロン）を調べた結果、そのうち既知の生化学的機能や関係性（Pathway:経路）を持つものの多くは老化に関連しており、一次代謝と光合成の経路が減少していた。自然老化と暗所誘発性老化の一方もしくは両方において発現する老化関連遺伝子（SAGs）に着目した。SAQRとポジティブに共発現するもののうちの40%にあたる534個の遺伝子は自然老化では発現が増加するが、誘発性老化では増加していなかった。このことはSAQRとSAQR同時発現遺伝子、自然老化の間の関連性を支持した。発達段階におけるSAQR発現の空間的、時間的変化を調べるため、SAQRプロモーターにGUSタグを導入した。SAQR発現は葉の先端で検出され、老化の進行につれて葉脈で強くなり、葉柄へとつながった。若くて生長段階の葉や根ではSAQR発現は観察されなかった。吸水後45日では古い葉の先端でSAQRが発現し、ほとんどの葉が老化する56日では老化に連れ葉の遠位から近位の部位へSAQRの発現が局在化されていった。どのような老化条件がSAQR発現を増加させるのか検討したところ、各種ストレスに対し様々な応答を示した。また、暗ストレスは成熟した葉で老化を誘発したが、SAQR発現は変化しなかった。これらの結果はSAQRが環境因子と共役して特異的な発達シグナルに応答すること、またSAQR発現は子葉と本葉での自然な老化で増加することを示唆した。シロイヌナズナのSAQRにおける機能を直接的に調べるため、35Sプロモーターを用いて過剰発現系統SAQR-OEを作製した。定常的な光か長日条件でノックアウト（saqr）もしくはOEの系統を生育した場合、形態は野生型と変わらなかった。OE系統は早い開花表現型を示し、開花に必要とする葉は少なかった。しかし、saqr系統は短日条件で生育した場合は開花時期に違いが生じなかった。塩分、サイトカイニン、1-アミノシクロプロパン-1-カルボキシ酸（ACC）で植物を処理した場合、OE系統は野生型と同様な形態を示した。QQS RNAi系統ではデンプン生合成と蓄積、SAQR発現が上昇していたが、saqr変異体においてはQQS転写産物の変化はなかったことから、SAQRはQQSの下流で作用すると考えられた。そこで、saqr及びOE系統の葉のデンプン蓄積を調べた。長日条件の光サイクルの後では、saqr系統では葉のデンプン量が13%ほど減少し、OE系統では野生型に対して20~35%増加した。つまり、SAQRの発現変化はデンプン蓄積に強く影響した。SAQRはストレスシグナリング、代謝、老化を統合するネットワークの要素になっていると推測される。

興味を持たれた方は是非ご参加ください。　　　　　高橋郁佳