2016年後期　第4回　細胞生物学セミナー

日時：11月15日（火）17:00- 場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

Auxin regulates Arabidopsis Anther dehiscence, pollen maturation, and filament elongation

Cecchetti, V., Altamura, M. M., Falasca, G., Costantino, P., Cardarellic, M (2008)

Plant Cell. 20: 1760-1774.

オーキシンはシロイヌナズナの葯裂開と花粉成熟と花糸の伸長を調節する。

自殖性植物では雄蕊発達の後期で起こる3つの過程である葯裂開、花粉成熟、そして花糸伸長が開花期での受粉成功に寄与する。ジャスモン酸が葯裂開と花粉成熟の最終段階と花糸の伸長に関与することは既に証明されている。オーキシンが雄蕊発達の早期の段階を制御することは示されており、タバコを用いた研究によって、葯裂開、花粉成熟および花糸伸長を制御している可能性が示唆されている。本研究はオーキシンが雄蕊発達の後期ステージの制御において重要な役割を果たすという示唆を確かめることを目的とした。

材料としてシロイヌナズナの野生型(Col-0)およびオーキシンの感受と輸送を喪失した各種変異体、GUSと緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーターを持つDR5:GUS系統を用いた。最初に、後期の雄蕊発生過程におけるオーキシンの分布を調べるためにDR5:GUS系統を解析した。その結果、著しいGUS特異的な染色は花の発達ステージ10から11まで認められたが、それ以外では認められなかった。次に、DR5プロモーターの活性が認められた組織でのオーキシンの生合成を確かめるために、雄蕊発達が起こるステージ8から12の雄蕊において、オーキシン生合成遺伝子のYUC2とYUC6の転写物の局在をin situハイブリダイゼーションによって解析した。その結果、花粉嚢周辺の組織と小胞子および前形成層においてDR5が活性化する前にオーキシン生合成遺伝子の転写が活性化し、ほとんどの組織においてDR5活性の減退が認められる前にこれらの転写が終わることがわかった。次に、花糸から葯へのオーキシン輸送の寄与の可能性を確認するために、減数分裂前のステージ8でDR5:GUS系統の花芽から葯を切り取り、植物内外でそれぞれ花芽を培養した。その結果、培養前は全ての葯でGUS活性が検出されず、24時間後には花芽の約50%の葯でGUS活性の局在が示され、花糸からのオーキシン輸送がDR5の活性化へ寄与しないことが示唆された。次に、オーキシン受容体遺伝子のTIR1, AFB1, AFB2, AFB3が雄蕊発達後期で発現するか否かと、これらの発現パターンが前述のYUC発現およびDR5活性と一致するか否かを評価するために、TIR1:GUS, AFB1:GUS, AFB2:GUS, AFB3:GUS等の系統を解析した。その結果、雄蕊の後期発達段階においてTIR1および全ての AFBオーキシン受容体遺伝子が転写されることが示された。

次に、オーキシンが後期の雄蕊発達過程に関与するか否かを評価するために、オーキシン感受欠損で稔性が低下したtir1 afb2 afb3 三重変異体とtir1afb1afb2 afb3 四重変異体で葯裂開と花粉成熟と花糸伸長を解析した。その結果、変異体では野生型より早く葯の裂開が起こり、花粉の成熟も早まることが示された。オーキシン感受欠損が花糸の発達にも作用するか否かを評価するためにtir1 afb1 afb2 afb3と野生型で花糸の長さを測定した。いずれの花糸もステージ10に達するまでは同等の長さを示したが、ステージ11以降はtir1 afb1 afb2 afb3の花糸の発達は低下し、成熟した花(ステージ13)で野生型よりも花糸が約25%短かった。また、短い花糸はオーキシン輸送欠損のmdr1 pgp1二重変異体でも認められている。この二重変異体とtir1 afb 変異体の花糸伸長と葯裂開と花粉成熟のタイミングを比較するために、これらの二重変異体を解析した。その結果ステージ10の間はいずれの雄蕊も同等の長さで、ステージ13ではmdr1 pgp1の雄蕊は野生型よりも20%短かった。このことから、長さの減少の程度がmdr1 pgp1とtir1 afbでおおよそ等しく、いずれも開花前の成長で障害が見られた。

以上より、シロイヌナズナにおいて減数分裂の終わりにオーキシン受容体遺伝子が転写され、オーキシンは雄蕊伸長の引き金となり、開花前の葯裂開と花粉成熟を妨げることが示唆された。その後、葯裂開と花粉成熟が起こる組織における、オーキシン生合成遺伝子の活性の低下および（もしくは）、オーキシン感受性の変化がこれらの過程の引き金となることが示唆された。

興味を持たれた方は是非ご参加ください。　　髙橋 花歩