2016年度後期 第5回 細胞生物学セミナー

日時:1122日(火)17:00~ 場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Effects of short-term hypergravity exposure on germination,

growth and photosynthesis of Triticum aestivum L.

Vidyasagar, P. B., Jagtap, S. S., Dixit, J. P., Kamble, S. M., Dhepe, A. P.(2014)

Microgravity Sci. Technol. 26: 375–384.

短期過重力曝露がコムギの発芽、生長及び光合成に与える影響

 

 植物は常に重力(1 g)に曝されており、それに順応している。近年、植物生理学の分野で重力は植物の生産を変化させることが研究され、重力が植物の多様なシステムを変化させることにおいて役割を担っていることが理解されている。先行研究が長期間の過重力環境下における穎果の発芽減少を報告しているが、減少する理由はまだ分かっていない。また、重要な光合成の要因であるクロロフィル含有量や光合成速度、PSの効率に対する過重力の影響も報告されていない。従って、本研究ではコムギの穎果を24時間の吸水後、短期過重力で10分間処理した後、通常の重力条件(1 g)下で播種し5日間生育させた場合の発芽や様々な生理学的パラメーターに与える影響を調べた。

 頴果の発芽率に短期過重力が与える影響を調べた。頴果の発芽は植物の生活環において決定的なステージであり、生存と適当な生長を保証するために、頴果が重力に応答する能力をもつ可能性がある。500 g以上で発芽阻害が見られ、2500 gでは頴果は発芽しなかったため、この値がコムギの頴果が発芽する閾値であることが分かった。シュート長や根長、シュートや根の生重量等の生長パラメーターはコントロールに対し過重力実験区で有意に低下していた。低い発芽率と生長率の原因を調べるため、短期過重力処理とコントロールにおける播種から5日後の穎果のα-アミラーゼ活性を調べたところ、重力の大きさに従って有意に減少し、500 g及び2500 gにおいてはそれぞれ17%及び50%減少した。過重力曝露は酸化ストレスを導く活性酸素種と抗酸化レベル間の繊細なバランスに影響する可能性がある。これを確認するために、活性酸素種(ROS)を除去する抗酸化酵素の活性を、過重力処理し5日間生育した頴果において調べた。カタラーゼ及びグアヤコールペルオキシダーゼの活性を過重力処理し5日間生育した穎果において調べたところ、カタラーゼ及びグアヤコールペルオキシダーゼの活性は、コントロールに対して重力の大きさに従って、10002500 gにかけて活性も増加した。主要な光合成色素であるクロロフィルabの含有量を調べた結果、過重力処理した穎果において重力の増加に伴い有意に減少した。具体的にはクロロフィルa含有量は500 g及び2000 gにおいてそれぞれコントロールに比べて7%及び60%減少していた。クロロフィル含有量の減少は植物の光合成能を低下させる可能性がある。そこでこれを確かめるために、短期過重力において多様な光合成の過程を調べた。光合成速度(PN)、蒸散速度(Evap)気孔コンダクタンス(GS)葉内二酸化炭素濃度(Cint)等の光合成パラメーターは短期過重力処理を行った5日齢の実生で重力の増加に伴い有意に減少し、個々の葉に固有の水利用効率(PN/GS)は500 g及び2000 gにおいてそれぞれ6%及び87%減少し、個々の葉に固有の炭素固定効率は500 g及び2000 gにおいてそれぞれ14%及び81%減少した。したがって、過重力処理によるクロロフィルの減少は光合成効率の減少を伴うことが分かった。また、重力の増加に伴い、光化学系の最大量子収率(Fv/Fm)とFv/Foの値は有意に減少した。2000 gにおいてPerformance index on absorption basisPIabs)が有意に減少した。以上より、コムギの穎果が短期過重力処理によりダメージを受け、その影響は1 g条件に移した後も持続することが示唆された。

興味を持たれた方は是非ご参加ください。   高橋郁佳