2016年度後期　第6回　細胞生物学セミナー　

日時：11月29日（火）17：00~　場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

MicroRNA857 is involved in the regulation of secondary growth of vascular tissues in Arabidopsis

Zhao, Y., Lin, S., Qiu, Z., Cao, D., Wen, J., Deng, X., Wang, X., Lin, J., and Li, X.(2015)

Plant Physiol ,169: 2539–2552

マイクロRNA 857はシロイヌナズナにおける維管束組織の二次生長の制御に関わっている

miRNAは真核生物の様々な発生過程や環境ストレスへの応答に関与している。miRNA857は全ての植物に存在しているのではなく、シロイヌナズナ（Arabidopsis thaliana）ではAtMIR857という単一遺伝子によりコードされていることが知られているが、植物の成長と発達の制御におけるmiR857の機能とその機構は不明であった。そこで本研究では、miR857の発現パターン,制御メカニズム,発達における生物学的機能を調べた。

まず他種との相同性検索を行った結果、シロイヌナズナとミヤマハダザオ（A. lyrata）とキンクネンボ（Citrus sinensis）の3種においてのみmiR857配列が発見され，相同性は非常に高かった。次に、qRT-PCRによりmiR857発現の特徴を調べると、発現は実生と6週齢の様々な器官で容易に検出され、花と長角果では強く茎では弱かった。さらに、形質転換体（pMIR857::GUS）を作り、miR857の組織特異的発現を調べると、AtMIR857プロモーター活性は実生の維管束組織において高かった。これらの結果から、MIR857の進化的な保存性は限定的であり、その発現パターンは時空間的に制御され、実生の維管束組織において明確に発現することがわかった。次に、miR857過剰発現（OX）株（35S:MIR857-9）を作り、miR857の標的として知られているラッカーゼ遺伝子のqRT-PCRを行った。その結果，野生型よりもAtLAC7の発現量が明らかに低かった。また、6週齢のOX株の茎から単離したタンパク質抽出物のラッカーゼ活性は野生型よりも低かった。さらに、同株の茎横断面のX線3D-µCT解析の結果、二次木部の細胞層が野生型よりも非常に小さかった。これらの結果から、miR857の過剰蓄積が標的遺伝子（AtLAC7）の下方制御と維管束組織の二次生長の減少を引き起こしたことが示された。さらに、mir857変異体（ノックダウン）株を用いてRT-PCR解析を行った結果。miR857の転写量は野生型よりも低く、AtLAC7の転写量は野生型よりも高かった。また、ラッカーゼ活性は野生型よりも著しく高かった。これらの結果は、miR857の機能喪失がAtLAC7の上方制御と維管束組織の発達促進を引き起こすことを示した。両株の花序柄の横断切片を作製し、厚壁細胞を含む領域と維管束間繊維および維管束の厚さ、二次木部の細胞数・直径・細胞壁の厚さなどの解剖学的特徴を調べた結果，これらの形成が野生型と比べてOX株では抑制，変異株では促進されており、二次木部の形態形成の制御にmiR857が関与していることが示された。また、誘導ラマン散乱顕微鏡を用いて茎のリグニンのSGサブユニット比を半定量的に調べたところ変異株では変化する傾向が見られた。mir857変異体と野生型の，クラソンリグニン含量の発達に伴う変化を調べたところ各器官でのリグニンの蓄積傾向は一貫していた。AtMIR857プロモーターは銅応答エレメント(GTACモチーフのアレイ)をもつため，異なるCu条件で処理した植物体のRT-PCRによるmiR857の発現解析およびpMIR857::GUSの発現解析を行った結果，GUSは低Cu条件で強く発現しており，miR857の発現はCu添加によって減少した。AtMIR857プロモーターの転写制御はCu量の変動に対するAtMIR857の適切な発現の為に重要であることが示された。さらに、spl7null変異体を用いて銅応答調節因子であるSPL7がAtMIR857プロモーターの発現に必要かを調べた結果，低Cu条件でのmiR857誘導がspl7変異によって阻害された。加えて、SPL7がmiR857発現を直接活性化するのかを調べる為に、AtMIR857プロモーターの上流にあるGTACモチーフを含むビオチンラベルしたプローブを5種設計し、大腸菌から精製したHisタグを付けたSPL7-SBP（SPL7のN末端にある良く保存されたDNA結合ドメインであるSQUAMOSAプロモーター結合タンパク質を含む）を用いてゲルシフトアッセイを行った。その結果，SPL7がAtMIR857プロモーター領域の近位のGTACモチーフと結合して相互作用することが示された。　　　　　　　　　　　　　　　

興味を持たれた方は是非ご参加ください。　　　篠笥公隆