2016年度前期 第2回 細胞生物学セミナー

日時:67日(火)1700〜  場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Electron tomography of cryo-immobilized plant tissue: A novel approach to studying 3D macromolecular architecture of mature plant cell walls in situ

Sarkar, P., Bosneaga, E., Yap Jr, G. E., Das, J., Tsai, W., Cabal, A., Neuhaus, E., Maji, D., Kumar, S., Joo, M., Yakovlev, S., Csencsits, R., Yu, Z., Bajaj, C., Downing, HK., Auer, M.(2014)

PLoS ONE 9: e106928.doi:10.1371/jornal.pone.0106928

成熟した植物細胞壁の三次元高分子構造を生体内でその場観察する新規の手法としての

植物組織のクライオ電子線トモグラフィー

 

経済的に実現可能な非食糧バイオマスからのバイオ燃料の生産には、その効率的な分解が必要であり、そのためには、植物細胞壁組成の詳細な知見を得ることが不可欠である。しかし、細胞壁構成要素の細胞壁内での詳細な三次元構造は不明であった。そこで本研究では、植物細胞壁の高分子三次元微細構造の観察のため,自己加圧急速凍結(self-pressurized rapidly frozenSPRF)試料の非染色のガラス質状に凍った切片のクライオ電子線トモグラフィーによるその場観察と、加圧凍結および凍結置換(high-pressure frozen,freeze-substitutedHPF-FS)した後に樹脂包埋し,さらに染色した切片の室温でのトモグラフィーという二つの新たな手法を用いた。これらの方法と従来の化学固定・包埋された試料の、染色済み切片のトモグラフィーの手法を比較し、新手法の特性を理解することを目的とした。

 実験試料には3~4週齢のシロイヌナズナ(A.thaliana)の、長さ2~3cmの若い花茎のほぼ中間部を用いた。

透過型電子顕微鏡下で試料の保存状態を比較すると、従来法でも細胞小器官はほぼ保存されていたが、細胞膜が波打つなど、品質は新規の二つの調整法に劣っていた。HPF-FS法では、従来法にみられた細胞壁の損傷や層ごとに均一に染色されたと思われる細胞壁の異なる層はみられなかった。また、リグニン沈着による染色剤浸透妨害のためか二次細胞壁の様子は従来法と類似していたが、リグニンの無い一次細胞壁は従来法と比較し非常に高密度であるように見えた。さらに、SPRF法では、低いコントラストのために細胞小器官を正確に観察できなかった。しかし、細胞壁層は、コントラストが比較的濃く現れている中層によって明瞭に区別でき、一次と二次細胞壁においてよく組織化された繊維状構造体を検出した。

次に電子線トモグラフィー法によって細胞壁の質の定性的な比較を行った。一次細胞壁については従来法の試料とHPF-FS試料の両方においてより高い電子密度であるように見えたが、二次細胞壁の微細構造を個別に観察することはできなかった。しかし、クライオ電子線トモグラフィーによって画像化されたSPRF試料の非染色ガラス質切片においては容易に可視化された。また、微繊維は時折、隣接する微繊維と交差または結合し、全体的には配向性をもつことが発見された。さらに、トモグラムにおける細胞壁の保存状態の,手法による違いの定量的な幾何学的解析を行ったところ、微繊維の直径は3つの手法の間で有意差はなかった。また、繊維間の空隙、繊維間の距離、架橋の長さは従来法では有意に長くなっていた。これは従来法の人工産物による可能性が高い。

HPF-FS樹脂切片のトモグラフィーは技術的に簡単であり、この方法の一次壁研究のための実用性を検討するために、細胞壁のセルロース微繊維の配向性の組織崩壊や、根の細胞壁における結晶性セルロースの減少を引き起こす変異体(cob-6)と野生型(WT)に適応し定量的解析をした結果、胚軸の柔組織細胞においては、変異体の細胞壁内で微繊維組織化のわずかな有意差を検出した。

以上より、凍結固定された試料の電子線トモグラフィー法により、高解像度での細胞壁三次元構造の詳細が定性的と定量的の両面で明らかとなった。また、SPRF試料のガラス質切片では、一次および二次細胞壁の自然状態に最も近い観察が可能となり、容易なHPF-FS法は、様々な対象に広く適用できた。これらより新規の二手法は人工産物の影響を受けやすい従来法より優れていることが示唆された。                       

興味を持たれた方は是非ご参加ください。  篠笥公隆