2016年度前期 第5回 細胞生物学セミナー

日時:712日(火) 場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Apoplastic barrier development and water transport in Zea mays seedling roots under salt and osmotic stresses

Shen, J., Xu, G., Zheng, H. Q. (2015)

Protoplasma 252:173-180.

塩または浸透圧ストレス環境下でのトウモロコシの幼植物の根におけるアポプラストバリアの発達と水の輸送

について

 

すべての維管束植物の根は内皮を持っている。多くの植物は内皮に加え、皮層として最も外側の層である外皮を持つ。植物は外皮を発達させ、こちらにおいてカスパリー線とスベリンのラメラの蓄積による細胞壁の修飾を引き起こす。環境の刺激に対する細胞壁の修飾は放射方向の水の移動の抵抗を増大させ、根から水を引き上げることをより難しくする。植物におけるアポプラスト輸送バリアの生理学的重要性は知られているが、環境要因がどのようにしてアポプラストバリアの構造に影響を与えるかについてはまだわからないことも多い。先行研究では塩および浸透圧ストレスの下で育てたトウモロコシの根のアポプラストバリアの構造に関係する内皮と外皮の発達が明らかにされた。本研究では根におけるアポプラストバリアの組織による特性と、異なる環境ストレス下における調節を調べた。

 材料として、トウモロコシの種子(Zea mays L. ‘Suyu NO.1’)を用いた。種子は暗所で2627℃の下2日間蒸留水で湿らせた濾紙の上で吸水させて発芽させ、3 cmほどの根を持つ苗をホグランド溶液を用い、培養庫の中で育てた。コントロールにはホグランド溶液を用い、塩および高浸透圧(乾燥)の処理には100200 mM NaCl20% ポリエチレングリコール(PEG)6000をそれぞれ含むホグランド溶液を使用した。苗を200 µmolm-2s-1の光子束率、16時間の光周期の下温室で育て、処理開始後812日後に採取し、解析を行った。

 塩および浸透圧ストレス下の一次根の生長と発達を調べた結果、両ストレスは植物の細胞への水の透過性を減少させた。100 mM NaClまたは20% PEGを処理した苗の総根長、根端領域の長さ、一次側根長はコントロールのものと比べて減少した。塩および浸透圧ストレス下での幼植物の根における静水の水の透過率(Lp)100 mM NaClまたは20% PEG処理の根で調べコントロールと比較した。その結果、PEG処理ではNaCl処理と比べて短い期間でLpの値が減少したことが示された。塩および浸透圧ストレス下での内皮と外皮の発達は、苗を固定し、0.1 mmの厚さの断面を根冠から連続的に作製し、蛍光顕微鏡下で観察した。その結果、内皮性のカスパリー線の先端側の位置はコントロールの根と比べて100 mM NaClまたは20% PEGの処理を行った根の両方において根冠に近づいた。スベリンの蓄積を可視化するために、スダンIIIによって染色を行った結果、内皮のカスパリー線におけるスベリンの蓄積は塩ストレスではむしろ低下し、浸透圧ストレス下では増加していた。ベルベリン-アニリンブルー染色を行った結果、NaCl処理でカスパリー線の染色は変化無く、PEG処理ではスベリンラメラが細胞の全周に及んだ。また高濃度のNaCl処理ではスベリン化が皮層の細胞の数層から全体まで見られることがあった。この複数層でのスベリン染色はPEGの処理を行った根でも確認されたが、外側の皮層細胞の34層に限られた。塩、浸透圧ストレス処理を行った幼植物の根のペルオキシダーゼ(POD)活性をtetramethylbenzidine試薬での染色により調べた。その結果、100 mM NaClまたは20% PEGの処理を行った根においてはいずれの場合でも内皮と中心柱の細胞壁のPOD活性がコントロールの根と比較して増加した。対照的に表皮細胞の細胞壁でのPOD活性はコントロールの根と比較しPEGの処理を行った根では増加したが、NaClの処理を行った根では明らかな違いは見られなかった。H2O2の分布を調べるために、塩化セリウム染色を行い電子顕微鏡観察した結果、内皮のカスパリー線におけるH2O2の分布は、NaClまたはPEG処理した場合のいずれも顕著となったが、表皮細胞の内側における分布はPEG処理では見られたもののNaCl処理では見られなかった。

 以上より、塩ストレスと浸透圧ストレスはトウモロコシの幼植物の根におけるアポプラストバリアの発達と水の輸送において異なる作用を示した。

興味を持たれた方は是非ご参加ください。 舛本