2016年度前期　第5回　細胞生物学セミナー

日時：7月12日（火）16:00-　場所：総合研究棟6階クリエーションルーム

Mutation of the Arabidopsis NAC016 transcription factor delays leaf senescence

Kim, Y., Sakuraba, Y., Han, S., Yoo, S., Paek, N.(2013)

Plant Cell 54: 1660–1672

シロイヌナズナの転写因子NAC016は葉の老化を遅延させる

　葉において老化過程は発達の最終段階となる。老化関連遺伝子（senescence-associated genes:SAGs）の大きなセットは光合成装置を分解し、細胞成分を再移動させる。多くの老化関連転写因子がSAGの発現の調節を通じて老化を促進もしくは遅延させる。本研究では、以前に特徴づけられていない老化に関連するシロイヌナズナNACファミリーの転写因子であるNAC016の機能を知るため、破壊株と過剰発現株の老化誘発に関する反応を解析し、酵母ワンハイブリッドアッセイによって直後の標的を同定し、塩分ストレスや酸化ストレスの関連について調べた。

NAC016の老化における機能を知るために、野生型の長日条件における葉の自然な老化時と切り離した3週齢の葉を暗条件に置き、老化を誘発した場合（dark-induced senescence:DIS）におけるNAC016の発現を調べた。NAC016の発現は2日目から徐々に増加し、葉がほとんど黄化した5日目で増加が止まった。次にNAC016の破壊株nac016-1及びNAC016の過剰発現株（NAC016-OX）の変化を調べた。nac016-1は通常老化が始まる4週目以降も緑色を維持した。緑色を維持する変異株には、同時に光合成能も維持する株と維持しない株の2タイプがあるが、nac016-1は光化学系タンパク質や正常なグラナのチラコイド構造を維持しており、前者であることが確認された。3週齢のNAC016-OXから切り離した葉は4日間の暗処理後、WT葉よりも早く老化を示し、実際にクロロフィル含有量も低かった。これらの結果はクロロフィル分解が密接に葉の老化期間におけるNAC016の発現量に関連することを示した。これらの表現型の分子メカニズムを知るため、nac016-1とNAC016-OXにおいてDISの場合に他のSAGs（NYC1、PPH、SGR1、WRKY22）や老化で誘発されるNAC（senNACs:JUB1、NAP、ORE1、ORS1、VNI2）の発現を調べたところ、前者においては発現が低下し、後者においては上昇していた。多くのsenNACは塩分ストレスや酸化ストレス下で発現上昇する。nac016-1とNAC016-OXから4週齢で切り離した葉を150 mM NaClで5日間もしくは20 mM H₂O₂で2日間処理した結果、両ストレス下において野生型よりも早く老化し、クロロフィル含有量も低かった。これはNAC016が両ストレス条件下におけるシグナル経路をもっていることが示唆された。NAC016が上述の5つのsenNACプロモーターに結合する能力について調べるために酵母ワンハイブリッドアッセイを行った。その結果、NAC016は葉の老化を調節するカスケードにおける直接の標的としてNAPとORS1のプロモーターに結合することが強く示唆された。NAC016の下流に位置づけられたNAPの変異株napは暗誘発性老化を示し、自然な老化において緑色を保持することが知られている。そこで、napが塩分ストレスと酸化ストレスのいずれかの条件下においてもnac016と同様の表現型を示すか調べた。4週齢のnap変異体から切り離した葉を150 mM NaClで5日間、もしくは20 mM H₂O₂で2日間処理した結果、napの葉は2つのストレス条件下において緑色を保持する傾向を示し、nac016-1の葉と同じ表現型を示した。これらの結果は老化の促進におけるNAC016-NAPの調節カスケードが塩分及び酸化ストレス応答経路と同じであることを示した。

興味を持たれた方は是非ご参加ください。　　　　　高橋郁佳