Kあい2016年度前期 第6回 細胞生物学セミナー
日時：7月19日（火）16:30～ 場所：総合研究棟6階クリエーションルーム
Ethylene biosynthesis
is promoted by very-long-chain fatty acids
during lysigenous aerenchyma formation
in rice roots
Yamauchi,T., Shiono, K., Nagano, M., Fukazawa, A., Ando, M., Takamure,I., Mori, H.,
Nishizawa, K, N., Kawai-Yamada, M., Tsutsumi,
N., Kato, K., and Nakazono, M.（2015）
Plant Physiol.
169: 180-193.
破性通気組織形成中のイネの根では極長鎖脂肪酸によりエチレン生合成が促進される。
通気組織形成は湛水および土壌に冠水することへの植物の形態的順応であり、内部のガス放散を促進している。湛水した植物の根での順応性増強応答は植物ホルモンのエチレンが制御しており、通気組織形成の誘導にも関与している。エチレンの生合成は1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸合成酵素（ACC Synthase: ACS）によるACC合成とACCからACCオキシダーゼ（ACO）によるエチレンへの転換の2過程からなる。また、植物のワックスやスベリンを構成する極長鎖脂肪酸（Very-long-chain fatty acid: VLCFA）（炭素数≥20）はエチレン生合成などの様々な生理的プロセスに直接または間接的に関与していることが知られている。イネのreduced culm
number1（rcn1 ）は不定根においてVLCFAから始まるスベリン単量体の蓄積が少ない。本研究では誘導性通気組織形成の分子基盤解明のためにrcn1 を用いて次の実験を行った。
10日齢のrcn1 と野生型のイネ実生を通気または脱酸素下で72時間生育させ、不定根の根端から10 mmの位置の横断切片を観察した結果、脱酸素下では野生型にて通気組織形成の誘導が見られたがrcn1 では見られなかった。次に脱酸素下のrcn1 におけるエチレン産生を調べた。20日齢の根を脱酸素下におきエチレン含量を測定した結果、rcn1 では野生型より有意に低かった。10日齢のrcn1と野生型を脱酸素下におき根端から10 mmの位置でのACSおよびACO 遺伝子の転写レベルを調べた。その結果、脱酸素下のrcn1 ではACS1の転写レベルは野生型より有意に低かったが、ACO5 の転写レベルは野生型に匹敵していた。10日齢のrcn1 と野生型の実生にACCとエテホン（エチレンを遊離する化合物）で処理し通気条件下で48時間生育させた後、根端から10 mmの位置で通気組織の割合を調べたところ、いずれにおいてもACCとエテホン処理の両方で用量依存的に通気組織が形成されたが、rcn1 では野生型と同程度の通気組織形成がおこるためには野生型よりも高い濃度が必要であった。次に20 μMのACCで処理したrcn1 の根におけるエチレン含有量を測定したところ、野生型の半分程度であった。rcn1 では脱酸素条件下で炭素数24,26,28のVLCFAの含有が低下していた。次に通気条件下のrcn1 と野生型に50 μMのVLCFAを与えたところ、いずれにおいても炭素数24,26の通気組織形成促進効果が高く、rcn1 はその効果はやや低下した。 C26:0の処理でrcn1と野生型の両者でACS1の発現が誘導された。次に10日齢の野生型をVLCFA伸長に関わるb-ketoacyl-CoA synthase (KCS)の阻害剤cafenstrolで処理を施した結果、通気組織形成、ACS1 遺伝子の発現が
抑制されエチレン含量は低下したが、ACCの添加によりエチレン含量の低下は回復した。KCSファミリーのうち、シロイヌナズナにおいて炭素数24以上の脂肪酸の伸長に関わるCUT1Lに最も相同性の高い脂肪酸エロンガーゼをコードするCUT1-LIKE（CUT1 ）やRCN/OsABCG5 の転写レベルを調べたところ、いずれの遺伝子の発現も脱酸素条件下で促進されたが、rnc1 ではその効果はやや低下した。続いて、アクチンプロモーターをつないだCUT1LアンチセンスpACT1::CUT1L-AS を導入した形質転換体を脱酸素条件下においた場合、ベクター対照区と比べ通気組織形成およびACS1 の転写レベルは有意に低下した。レーザーマイクロダイセクション法によって、中心柱、皮質、外側部を収集し、各部位でのRCN1/OsABCG5,CUT1L,ACS1 の転写レベルを調べた結果、脱酸素条件下ではいずれも根の外側部で有意に増加し、CUT1Lは皮層でもやや増加していた。ACO5 の転写レベルは全ての組織で有意に増加していた。以上のことから、脱酸素条件下において外側部でVLCFAがACS1の調節を通じてACCの産生を促進しエチレン産生量を増加させ、増加したエチレンが皮層細胞における破性通気組織形成を誘導すると考えられる。 興味を持たれた方は是非ご参加下さい。 北平佑貴