2017年度後期 第1回 細胞生物学セミナー

日時 : 1017()1700〜 場所 : 総合研究棟6階クリエーションルーム

Modification of growth anisotropy and cortical microtubule dynamics in Arabidopsis hypocotyls grown under microgravity conditions in space

Soga, K., Yamazaki, C., Kamada, M., Tanigawa, N., Kasahara, H., Yano, S., Kojo, K., Kutsuna, N., Kato, T., Hashimoto, T., Kotake, T., Wakabayashi, K., and Hoson, T. (2017)

Physiol Plant doi: 10.1111/ppl.12640

宇宙の微小重力条件下でのシロイヌナズナの胚軸生長に見られる表層微小管動態と異方性生長の変化

 

重力は植物の生長や発達を制御する最も重要な環境刺激の1つである。植物は重力に抗するため丈夫な体を発達させている。微小重力はシロイヌナズナとイネの実生で伸長生長を刺激し、太さを抑制することが知られている。しかし、微小重力条件下での表層微小管の動態は明らかになっていなかった。

本研究では、微小管を構成するチューブリンや微小管結合タンパク質(MAPs)に緑色蛍光タンパク質(GFP) GFP-TUB6BPP1-GFPSP1L3-GFPSPR2-GFPGFP-MAP65-1を融合させたタンパク質を導入した5系統のシロイヌナズナを用いた。BPP1は微小管を安定化させ、SP1L3は微小管組織を維持し、SPR2は微小管の+末端の動態性を促進し、MAP65-1は微小管を束ねる機能を持つMAPsである。種子を70%エタノールで滅菌して38x16x0.5 mmのサイズの容器に地上で播種し、周回軌道上で暗所で76.8時間栽培した。この容器を蛍光顕微鏡にセットして観察し、撮影した顕微鏡写真は地球へほぼリアルタイムで転送された。蛍光顕微鏡は微小重力環境に設置されているため、宇宙で遠心機を用いて作り出した1 G対照区で実生から育てると、顕微鏡観察を行う間に実生が微小重力の影響を受け、表層微小管の動態が変わるかもしれない。そのため1 G対照区は地上で行われた。胚軸の長さと直径は撮影した光学画像からImageJを用いて測定した。各細胞の表層微小管の方向を記録し、細胞の短軸からの角度として0-20°()20-70°()70-90°()またはランダムのいずれかに細胞を分類した。さらに、各細胞の表層微小管の平均角度も測定した。SPR2-GFPGFP-MAP65-1はネイティブプロモーターによって発現されたので、微小重力がSPR2MAP65-1のタンパク質レベルに与える影響をGFP輝度で評価した。

 1 G対照区と比較して、微小重力下ではすべての系統の胚軸長が約15%有意に長くなった。また、微小重力下ではすべての系統で胚軸の直径が約15%胚軸有意に減少した。つまり微小重力下では、伸長生長は促進されたが、横方向の生長は抑制された。微小重力条件下で生長した実生における横向きの微小管を持つ細胞の割合は、すべての系統において1 G下より高かった。微小重力がシロイヌナズナの伸長生長を刺激し、横生長を抑制したとき表層微小管が横方向に、より配向していたことから、表層微小管の再配向が重力による異方性生長の調節に関与していることが示唆される。さらに、各細胞の表層微小管の平均角度を分析した。BPP1-GFPSPR2-GFPGFP-MAP65-1の表層微小管の角度は微小重力下で有意に減少し、GFP-TUB6SP1L3-GFPでは減少傾向だった。微小重力はGFP-MAP65-1系統においてGFP蛍光を有意に増加させたが、SPR2-GFP系統では影響を示さなかった。微小重力下でMAP65-1のタンパク質レベルが増加したことが示唆される。逆に、過重力下では横向きの微小管が減少するとともにMAP65-1のタンパク質レベルは減少することが先行研究により示唆されている。従って、重力によるMAP65-1遺伝子発現の変化によるMAP65-1のタンパク質レベルの変化が表層微小管の配向を制御する機構の1つであるかもしれない。

 

 

興味を持たれた方は是非ご参加ください。 谷畑 昂士郎