2017年度後期 第2回 細胞生物学セミナー
日時:10月24日(火)17:00〜 場所:総合研究棟6階クリエーションルーム
The biphasic root growth response to abscisic acid in Arabidopsis
involves interaction with ethylene and auxin signalling pathways
Li,X., Chen,L., Forde,G.B., and Davies,J.W.(2017)
Front. Plant Sci. 8:1493
シロイヌナズナにおけるアブシジン酸に対する二相性の根伸長応答にはエチレンおよびオーキシンの
情報伝達経路の相互作用が含まれる
植物の伸長や収量産生はしばしば種々の非生物学的ストレスによって制限される。緩やかな土壌の乾燥は根の伸長を促進するが、重篤な土壌の乾燥では根の伸長は抑制される。しかし、これらの二相性を示すような根の応答の根底にある機構については明らかになっていない。植物ホルモンは植物の伸長や発生における重要な制御因子であり、アブシジン酸(ABA)はストレスホルモンや乾燥応答を制御する。十分な水分条件下での外生のABA処理では、高濃度のABAでは根の伸長が抑制され、低濃度のABAでは伸長が促進され、ABAが二相性の効果を持つことが報告されている。エチレンは非生物的ストレス応答を仲介する主要なホルモンであり、ABAが制御している根の伸長にも関与していることが報告されている。オーキシンは根の発生における主要な制御因子で、ABAとクロストークの関係にあり、中程度の水欠乏下ではABAが根の伸長を維持するためにオーキシン輸送を調節している。しかし、低濃度のABAに対するオーキシン輸送の役割や、オーキシン輸送が高濃度のABAの応答に関与しているか否かは明らかになっていない。本研究では、12種類の変異体系統に5種類の阻害剤とABAを与え、根の伸長における高・低濃度のABAの二相性効果にオーキシンとエチレンが関与しているか否か検証した。
実験材料として、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana L. Col-8)とColumbiaを遺伝的背景に持つ、オーキシン流入担体AUX1の変異体(aux1-T、aux1-7)、オーキシン流出担体の変異体(pin2/eir1-1、pin3-4、pin3-5、pin4-3、pin7-2)、オーキシン情報伝達変異体(iaa7/axr2-1、tir1-1)、エチレン非感受性変異体(etr1-1、ein2-1、ein3-1)の12種類の変異体系統、およびオーキシンレポーター系統DR5::GFP を実験に用いた。まず、根におけるABA濃度の効果範囲を調べるために、ABA 0, 0.1, 1, 10 μMの寒天培地に4日齢のシロイヌナズナの実生を移し、6日間生育させたところ、未処理の実生と比較してABA 10 μM処理によって根の伸長が40%抑制され、ABA 0.1 μM処理では根の伸長が20%促進された。以降の実験では、抑制効果を持つABA 10 μMを高濃度ABA、促進効果を持つABA 0.1 μMを低濃度ABAとして実験に使用した。次に根の伸長に対するABAの影響がエチレン依存的か否か検証するために、高または低濃度のABAとエチレン生合成阻害剤(AVG)またはエチレン作用点阻害剤(STS)を含む寒天培地で4日齢の実生を4日間育てたところ、高濃度ABAおよびAVGまたはSTS処理では抑制効果が解除されたが、低濃度ABAおよびAVGまたはSTS処理では促進効果に影響はなかった。3種類のエチレン非感受性変異体をABA処理したところ、高濃度ABA処理では根の伸長に影響はなかったが、低濃度ABA処理では根の伸長が促進された。オーキシン輸送との関与を調べるために高または低濃度ABAとオーキシン流出阻害剤(NPAとTIBA)またはオーキシン流入阻害剤(CHPAA)を含む培地に4日齢の実生を4日間生育させたところ、低濃度のABAおよびNPAまたはTIBT処理では促進効果が見られなかったが、低濃度のABAおよびCHPAA処理ではまだ促進効果を持っていた。また、高濃度のABAおよびNPAまたはTIBT処理と未処理の4日間の根の伸長率を比較すると阻害剤処理をした根の伸長率が86〜89%抑制されたが、CHPAA処理では23%しか抑制されなかった。最後にオーキシン情報伝達・流出・流入変異体をABA処理したところ、aux1-7, aux1-T とiaa7/axr2-1 はいずれも、高濃度ABAの抑制効果に対して非感受性を示した。低濃度ABAの促進効果の場合では、pin2/eir1-1 、iaa7/axr2-1において、その効果がブロックされた。
したがって、低濃度ABAの促進効果はエチレンとは独立したオーキシンの情報伝達とPIN2/EIR1を介したオーキシン流出を必要としている一方で、高濃度ABAの抑制効果には、エチレン依存的な経路を介したオーキシン情報伝達とAUX1を介したオーキシン流入を必要としている。と結論付けられた。
興味を持たれた方は是非ご参加下さい。 北平佑貴