2017年度後期 第4回 細胞生物学セミナー
日時:11月21日(火)16:00〜 場所:総合研究棟6階クリエーションルーム
ERECTA-family receptor kinase genes redundantly prevent premature progression of secondary growth
in the Arabidopsis hypocotyl
Ikematsu, S., Tasaka, M., U.Torii, K., Uchida, N.
New Phytologist(2017)213: 1697-11709
受容体型キナーゼ遺伝子であるERECTAファミリーの重複が
シロイヌナズナの胚軸での二次生長の早発的な進行を防ぐ
シロイヌナズナの胚軸は、二次生長の研究におけるモデル組織として知られ、発芽後すぐに二次生長を開始する。二次生長中の胚軸の木部では、花成の後、リグニン化していない柔組織細胞とリグニン化した導管細胞を生産する「フェーズT」から、柔組織の代わりにリグニン化した繊維細胞が生産される「フェーズU」への相転移が起こるが、花成からフェーズUへの移行の間には時間的なギャップがあることが知られている。しかし、繊維形成の開始時期を適切に制御する機構は十分に解明されてはいない。またシロイヌナズナのERECTA(ER)遺伝子は、ホモログであるER-LIKE1および2(ERL1,2)とERファミリーを構成し、胚軸での維管束の発達に関与している可能性が示唆されているが、二次生長におけるERファミリーの役割は不明である。
筆者らはまず、GUS応答性のプロモーターをもつ系統を用いて二次生長の間のERファミリーの発現パターンを調べた。すると、ERとERL1のプロモーターの活性は胚軸での二次生長の間維持され、中心柱で広く検出された。また、21 dag(発芽後21日)の野生型(WT株)、er変異株、erl1変異株、er erl1変異株のそれぞれの胚軸の横断切片を観察すると、er erl1株でのみ木部領域の顕著な拡大がみられた。これらの結果は、ERとERL1の重複が木部の過剰な放射生長を抑制することを示した。
筆者らは次に、28 dagのWT株、er株、erl1株、er erl1株の胚軸のリグニンをフロログルシノールで染色した。すると、リグニン化した二次壁は導管とその周囲の繊維細胞でみられ、er erl1株の木部では他の遺伝子型とは異なり二次壁化した細胞が大半を占めていた。さらに、14 dagのer erl1株の木部において既に、28 dagのWT株で形成された繊維細胞と類似した二次壁化細胞が見られた。また、繊維分化に関わるNST1(NAC SECONDARY WALL THICHENING PROMOTING FACTORs 1)と3の発現量に注目したところ、WT株では28 dagで発現量が増加し、nst1 nst3の二重変異によって繊維形成が完全に消失したのに対し、er erl1株では14 dagで早発的な発現がみられ、nst1 nst3の二重変異の追加によって繊維形成が完全に消失した。これらの結果は、ERとERL1が、木部の相転移に適切な時期になるまで繊維細胞の生産を防ぐために、NST1と3の発現が駆動する繊維分化経路の早発的な開始を防ぐことを示している。
筆者らはさらに、ジベレリン(GA)がWT株の胚軸での繊維分化に関わることから、er erl1株に対して10 dagからGA生合成阻害剤(Paclobutrazol)の処理を行った。すると繊維形成は完全に消失したが、GAを同時に与えると繊維形成が復活した。また、WT株の胚軸での繊維分化の開始には花成が先行するという先行研究をうけ、花成が遅れる変異体(constans(co))を利用して、GAによる繊維分化経路に花成が必要なのか否か調べた。すると、21 dagのer erl1株では繊維形成が見られたが、co株とer erl1 co株では21 dagでも繊維形成は見られなかった。また、er erl1株の花成前の実生に対する10 dagまでの短期間、またはer erl1 co株に対する21 dagまでの長期間のGA処理を行っても繊維形成は起こらなかった。これらの結果は、GAが繊維分化の為に必要であり、また胚軸は花成によりGAに応答するための適格性を得ることを示している。
筆者らは最後に、BREVIPEDICELLUS(BP)が花序柄での繊維分化を制御するという先行研究をうけ、bp変異株とbp er erl1株の胚軸を調べた。すると、28 dagでも繊維形成は起こらず、花成後までGA処理をしても復活しなかった。つまり、BPはERとERL1の上位にあり、胚軸がGAに応答するための適格性を得るために必要であることが示された。 興味を持たれた方は是非ご参加ください 篠笥公隆