2017年度後期 第7回 細胞生物学セミナー

日時:1215日(金)16:00〜  場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Adaptation of root function by nutrient-induced plasticity of endodermal differentiation

Barberon, M., Vermeer, E. M. J., Bellis, D. D., Wang, P., Naseer S., Andersen, G. T., Humbel, M. B.,

Nawrath, C., Takano, J., Salt, E. D., and Geldner, N. 2016

Cell 164: 447-459

栄養誘発性の内皮分化の可塑性に対する根機能の適応

根での無機栄養の放射輸送はシンプラスト、アポプラスト、細胞を経る経路を介して行われ、選択的取り込みには表皮と細胞外の拡散バリアが必要である。内皮では、カスパリー線(CS)がバリアとして細胞の放射・横断方向に蓄積される。CSが非連続的になるシロイヌナズナのsgn3 変異体は重度のK欠乏を示し、栄養輸送との関連が示唆された。内皮細胞ではさらにスベリンが細胞膜と一次壁の間に層状(スベリンラメラ)に蓄積し、表面全体を覆う(コルク化)。本研究ではコルク化の機能的役割と栄養輸送との関与の解明を目的とした。

シロイヌナズナ(Arabidopsis thalianaCol株を用い、生細胞内で蛍光を示しシンプラスト輸送をモニターできる二酢酸フルオレセン(FDA)を使用し、野生型におけるCSとコルク化した内皮のバリア機能を調べたところ、非コルク化しておらずCSのみを内皮においてFDA1分後には内皮や内鞘へ流入した。コルク化した領域では取り込みが制限された。また、CS欠損変異体(esb1,casp1 casp3 )では初期のコルク化が野生型より促進され、FDAの初期の取り込みをブロックした。この結果から、スベリンラメラの形成はアポプラストと経細胞輸送経路を制限するが、シンプラスト経路には影響していない可能性がある。次に輸送体の変異体を用いてスベリン沈着における栄養ストレスの影響を調べたところ、金属欠乏変異体irt1FeMn欠乏変異体nramp1ではコルク化の著しい減少、スベリン形成の遅延、非連続的なパッチ状のコルク化が見られた。対照的にskorsultr1;1 sultr1;2では野生型でのコルク化の発生よりも連続的で急速なコルク化が観察された。この変化が輸送体変異に特有のものか栄養ストレス条件下で誘導されるものか検証するため、野生型を栄養ストレス下においたところ、KS欠乏下でコルク化が増強した一方で、Fe, Mn, Zn欠乏条件下では遅延していた。つまり、スベリンラメラ形成は高度に可塑的で広範囲の栄養ストレスに誘導された。栄養誘発によるこの可塑性を仲介するシグナル経路の解明のために、スベリン関連遺伝子の発現を誘導するアブシジン酸(ABA)の影響を調べた。スベリン合成酵素GPAT5のレポーター系統GPAT5::mCITRINE-SYP122 ABA 1 µMで処理すると、3時間後には内皮でGPAT5 が誘発され、根端に伸展したが、未処理の根ではパッチ状のパターンを示した。ABA処理した根では未処理の根よりスベリンラメラが発達し、スベリン単量体の含量が43%増加していた。ABAシグナル経路欠損変異体(ELTP::abi1-1, CASP::abi1-1)ではスベリン形成の遅延が見られ、ABAが急速なコルク化を誘発することが示唆された。スベリン蓄積の減少が見られるFe欠乏にはエチレン産生が関与することが知られている。野生型をエチレン前駆体ACC1 µMで処理したところ、新しく形成されたスベリンの蓄積が未処理と比較して40%減少し、既存のスベリンラメラがACC処理後に分解されていた。ACC処理したエチレンシグナル経路欠損変異体ctr1でコルク化の遅延や欠如が見られたが、ABA処理を施すとコルク化の部分的な回復が見られ、コルク化の制御にはABAとエチレンのシグナル経路が対立していることが示唆された。2つのホルモンによるコルク化の変化が栄養誘発性か調べたところ、SKの欠乏下ではetr1ein3 でコルク化の増加が見られたが、ELTP::abi1-1 系統では増加が見られず、Fe, Mn, Zn欠乏下でもein1,3 は影響を受けなかったことから、栄養誘発性のコルク化増加はABAが、減少ではエチレンが仲介していることが示唆された。最後に栄養ストレスへの適応的な応答がコルク化の可塑性に関わるか調べるために、スベリン欠乏変異体(ELTP::CDEF1CASP1::CDEF1)のロゼット葉をイオノーム解析にかけたところ、野生型よりLiNaAsの含有量が高く、Kの含有量が低下してしたが、多くの元素レベルは維持されていた。また、コルク化が増加するsultr1;1 sultr1;2がスベリン欠乏系統を背景に持つと重度のS欠乏が表現型に現れた一方で、スベリンの減少が見られるirt1は、Fe供給によって表現型が回復した。以上より、コルク化の増加だけでなく、減少も生理的な適応応答であることが分かった。

興味を持たれた方は是非ご参加下さい。  北平佑貴