2017 年度前期 第 1 回 細胞生物学セミナー
日時: 5 月 9 日 (火) 17:00~ 場所: 総合研究棟 6 階クリエーションルーム
Early development and gravitropic response of lateral roots in Arabidopsis thaliana
Guyomarc’h, S., Léran, S., Auzon-Cape, M., Perrine-Walker, F., Lucas, M., Laplaze, L. (2012)
Phil. Trans. R. Soc. B 367: 1509-1516
シロイヌナズナにおける側根の初期成長と重力屈性応答
根系は植物の成長と生存において重要な役割を果たし、その構造は養水分の吸収や植物体の支持に影響を及ぼす。 根系の構造は、根の成長方向や側根が形成する位置と頻度に依存し、これらの調節は様々な環境に対する高い可塑性を植物にもたらす。 根の成長方向は重力ベクトルや、光、養水分、障壁の存在によって左右され、これらの要因の作用については、主根を中心に研究がなされてきた。 一方で、側根も根系の構造全体の機能の解明には非常に重要であるが、その知見はまだ少ない。 本研究では、主根から突出した若い側根における重力屈性応答を調べるため、重力感知に関わる平衡石の形成、主根との師部接続の確立、そしてオーキシン輸送体の発現パターンについて、解析を行った。
植物材料として、シロイヌナズナの野生型 (Col-0 株)、SUC2::GFP 株、およびオーキシンの各種輸送体の遺伝子に蛍光タンパク質のレポーター遺伝子を接続した株を用いて、垂直に立てたフィタゲル培地のプレートに播種し生育させた。 側根形成を誘導するために、発芽から 4 日後にプレートを 90° 傾けることで重力刺激を与え、24 hag (hours after gravistimulation: 重力刺激を与えてからの時間) 後に元の角度に戻し、48 hag の時点で主根から出た側根を解析した。
まず、側根での重力応答を調べるために、プレートを垂直に立てた状態で 10 日間生育させた個体における側根の長さと重力方向に対する角度を測定した結果、側根は主根に対して垂直に突出し、徐々に重力方向へと成長の向きが変化した。 また、側根形成を誘導した根において、主根からの側根の突出 (48 hag) から 48 時間 (96 hag) までの間で、側根は不連続的に徐々に重力の向きへ成長方向を変えた。 これより、重力刺激から数時間で応答を示す主根とは、側根の重力応答は異なり、突出から 48 時間以内の側根では屈曲角度のばらつきが大きく重力屈性の不均一性と不安定性が明らかになった。 次に Lugol 染色を用いて、側根におけるコルメラ細胞内の平衡石の存在を調べた結果、主根から突出して 12 時間経過した側根では染色が見られなかった一方で、突出から 24 時間経過した側根ではコルメラ細胞のアミロプラストが染色された。 これより、側根におけるコルメラ細胞内での平衡石の形成は、側根の突出から 12 ~ 24 時間 (60 ~ 72 hag) 後に起きることが示された。 側根がどの時点で主根と維管束接続を形成するのか調べるために、伴細胞で発現した GFP によって師部流やシンクの組織の標識が可能な SUC2::GFP 株を用いて解析を行った。 その結果、主根では維管束で強いシグナル、分裂組織では弱いシグナルが見られた。 一方、側根では 60 hag の段階で側根原基全体に弱いシグナルが見られ、師部からの積み降ろしは起きているが、側根では師部が分化していないか、主根の師部との接続が確立していないことが示唆された。 しかし、72 hag の側根では維管束で強い GFP シグナルが見られたことから、主根と側根の維管束の接続は 60 ~ 72 hag の間に確立することが示された。 また、これは平衡石の形成の時期と一致するため、師部接続の確立によって、成長や屈性応答、平衡石中のデンプン粒の形成に必要な炭素や植物ホルモンの供給が増加した可能性がある。
オーキシン輸送体である AUX1、PIN1、PIN2、PIN3、PIN4、または PIN7 に YFP または GFP レポーター遺伝子を接続した株を用いて、それぞれの側根での発現パターンを比較した。 解析の結果、AUX1 および PIN1 は側根原基の段階から突出後まで通して発現が確認された。 PIN2 は側根突出後 (48 hag 以降) の早い段階で発現が開始し、PIN4 と PIN7 は 48 ~ 72 hag に側根の維管束組織で発現を開始し、72 ~ 96 hag に側根のコルメラ細胞で発現を開始した。 一方で、PIN3 は主根と側根のいずれのコルメラ細胞でも発現しているが、72 ~ 96 hag に側根のコルメラ細胞で発現が消失したため、側根では根端でのオーキシンの分布の変化させることで、成長方向を変えている可能性が考えられる。
本研究によって、側根で起きる新たな成長の動態と、側根特有の重力に対する応答について理解するためのオーキシン輸送体の発現パターンが明らかになった。