2017年度前期 第8回 細胞生物学セミナー

日時:719日(水)1630〜 場所:総合研究棟6階クリエーションルーム

Brassinosteroid signaling and auxin transport are required to establish the periodic pattern

 of Arabidopsis shoot vascular bundles

Ibañes, M., F àbregas, N., Chory, J., Caño-Delgado, A. I. (2009)

Proc. Natl. Acad. Sci. 106: 13630–13635.

ブラシノステロイドのシグナリングとオーキシンの輸送は、

シロイヌナズナのシュートの維管束での周期的なパターン形成を制御している

 

 植物の維管束組織は、植物体の生長と発達に必要な、物質の輸送と植物体の支持を担っている。維管束(Vascular Bundle: VB)は植物種間で多様なパターンが見られ、シロイヌナズナの花序柄においては、VBsの間に維管束間繊維が分化し、交互に周期的に並んだ放射状のパターンとなっている。しかし、花序柄内でVBの配置を決定するメカニズムは不明なままだった。先行研究によって、オーキシンとブラシノステロイド(BR)がVBの形成と分化に関与することが示されているが、これらが花序柄でのVBsのパターン形成に関与するメカニズムについては不明であった。本研究では、シロイヌナズナの花序柄でのVBsのパターン形成において、オーキシンとBRsが果たす役割について明らかにすることを目的とした。

 葉序のパターン形成でみられるように、極性輸送によるオーキシン濃度極大部の形成は、器官の周期的な配置に重要であると考えられる。そこで筆者らは、極大部の周期的な分布がVBの数と配置を決定するかどうか調べるため、まず、DR5::GUSを用いて極大部の位置とVBの位置が対応するかを調べた。その結果、GUSの活性はVBで特異的に見られ、そのなかでも前形成層と分化途中の木部細胞で周期的に発現した。次に、前形成層のリング上でのオーキシンの流れのシミュレーションをするために、オーキシンの極性輸送と受動拡散を考慮した数学的なモデルを考案した。モデル解析と先行研究から、VBの発達方向の細胞側面に局在した排出輸送体タンパク質(PIN1)によってオーキシンの不均等な分布が駆動されていることが示された。そこで、pin1pin2二重変異体の表現型を解析した結果,VBと木部細胞の数がそれぞれ増加しVBsのパターンもでたらめであった。排出輸送体を著しく少なく設定したモデルでも、極大部の数は増加し、極大部の大きさは小さくなった。これは、オーキシンの不均等な分布がVBsのパターン形成を駆動していることを示している。筆者らは次に、オーキシン過剰発現株(yucca)を想定してオーキシンの極大部の数を予想し、実際のVB数を計測した。その結果、極大部の数はオーキシンの量が増加しても変わらず、VB数も野生型(WT)と差はなかった。

 BR欠損変異体は、WTよりもVBが少なく、木部数も減少することが報告されている。そこで筆者らは、BR量の変化によるVB数の変化と、オーキシンの極大部の数の変化とに相関があるかどうか調べるため、BRのシグナリングまたは生合成に関連した各種変異体の網羅的な表現型解析を行った。その結果、BRの生合成かシグナリングのどちらかが阻害された変異体は、VBsのパターン形成に同様の変化をおこした。さらに、yucca株をBR生合成阻害剤BRZ220で外生的に処理するとVB数が減少した。このことから、VBsのパターン形成の制御にはBRsが関わっていることが裏付けられた。筆者らは次に、モデルのなかでオーキシン濃度の極大部の数を変化させる因子を調べた。その結果、濃度の極大がみられた細胞数の平均値と、前形成層と維管束間繊維の最外層の細胞数の合計値が、極大部の数を制御していることが示された。そこで、BR機能獲得型変異体とBR機能欠失型変異体を用いて、リング全体の前形成層と維管束間繊維の最外層の細胞数をそれぞれ計測した結果,前者の細胞数は劇的に増加し、後者の細胞数は減少した。そしてこの細胞数の変化とVB数の間には有意な相関関係が認められた。このことから、BRsは前形成層の細胞分裂を制御することによって、VB数の決定のために重要な役割を果たしていると考えられる。

 

興味を持たれた方は是非ご参加ください 篠笥 公隆