2018年度前期 第11回 細胞生物学セミナー
日時:7月3日(火)10:00~ 場所:総合研究棟6階クリエーションルーム
ABCG transporters are required for suberin and pollen wall extracellular barriers in Arabidopsis
Yadav, V., Molina, I., Ranathunge, K., Castillo, I. Q., Rothstein, S. J., Reed, J. W. (2014)
Plant Cell 26: 3569-3588
シロイヌナズナにおいてスベリンおよび花粉壁細胞外バリアのためにABCGトランスポーターを必要とする
植物における効果的な水分平衡の制御には、水と溶質の移動をコントロールする細胞外のバリアの局在性を必要とする。スベリン、リグニン、およびクチンを含むいくつかの細胞外ポリマーは、植物が内部の水およびイオンの流れを制御し、乾燥を制限し、病原体の攻撃から保護するのを助けるバリアとして作用する。その一つとして内皮はスベリン合成と、アポプラストで溶質移動のバリアの役割を果たすリグニンで構成されたカスパリー線形成の両方を行う。また、5種のシロイヌナズナABCG(ATP結合カセット輸送体Gサブファミリー)ハーフトランスポーターのクレードは根と種皮のスベリン合成(ABCG2, ABCG6, 及びABCG20)と花粉壁の合成(ABCG1及びABCG16)に必要とされる。本研究では、ABCGトランスポーターの変異体を用いて、バリア合成のための輸送要件、ならびにバリア欠損の生理学的および発生学的因果関係を明らかにすることを目的とした。
植物材料にはシロイヌナズナのコロンビア(Col)株を用いた。種子を表面殺菌し、pH5.7に調整した0.8% (w/v)植物寒天を含むMS培地上に播種し、4℃で2-3日間おき催芽した後16時間明期、8時間暗期で22度の容器で生育させた。本実験ではスベリン染色にFluorol YellowやSudan Red、リグニン染色にphloroglucinol、セキシン染色にAuramine-O、インティン染色にCalcoflour stainingを用いた。
GUSを用いたABCG1, 2 6 ,16 及び20のレポーター株のX-Gluc染色により、ABCG1, 2, 6 及び16遺伝子のプロモーターが成熟根内皮で、全てが葯, 花粉で、及び種皮で発現していることが示唆された。
qRT-PCRによりこれらの遺伝子がそれぞれシュートより根で高い発現をすることが確認された。また、フルリドン存在下での根のGUS染色が減少したが、フルリドン存在下でアブシジン酸(ABA)を与えると染色が回復したことから、内在性ABAが根内皮におけるこれらの遺伝子の発現に寄与していることが示唆された。さらに、abcg2 abcg6 abcg20の三重変異体を作成し、ヨウ化プロピジウム(PI)を用いて根における溶質透過性を検定した。根の若い部分ではバリアを有し中心柱からPIが排除され、古い部分ではPI排除が欠損していたことから、ABCGトランスポーターとスベリンが内皮のバリア機能に必要ではないことが示唆された。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた組織構造の観察により、三重変異体のスベリンはラメラ構造とバリア性質を与える脂肪族成分の欠損があることが示唆された。
種子及び根のスベリン組成分析のためにガスクロマトグラフィー質量スペクトル分析を行ったところ、三重変異体では野生型と比べ総スベリンポリエステルモノマー含量が根では約3倍であったが、種子では半分未満であり、変異体の根にはスベリン生合成の代償的増加が見られたが、種子にはそれが起こらないことが示唆された。また、クロロホルムで抽出されるワックスの成分を調べたところ、三重変異体においてアルキルフェルラ酸とアルキルカフェ−酸が顕著に減少し、逆に脂肪族アルコールのいくつかが増加した。前者のアルキルヒドロキシ桂皮酸はおそらく重合前のスベリン前駆体であると推測され、それらが変異体では減少したことから、スベリン中の脂肪族部分は、遊離の脂肪族アルコールに由来するのではなく、アルキルヒドロキシ桂皮酸として取り込まれるということが示唆された。三重変異体におけるスベリン生合成遺伝子の転写レベルの解析の結果、減少したものがある一方で増加したものもあり、スベリン生合成遺伝子の欠損を部分的に補うことが示唆された。
興味を持たれた方はぜひご参加ください。 豊田 優一