2018年度前期 第5回 細胞生物学セミナー
日時:5月8日(火)17:00〜 場所:総合研究棟6階レクリエーションルーム
An auxin maximum in the middle layer controls stamen development and pollen maturation in Arabidopsis
Cecchetti, V., Celebrin, D., Napoli, N., Ghelli, R., Brunetti, P., Costantino, P., Cardarelli, M. (2017)
New Phytol. 213 : 1194-1207
葯の中間層におけるオーキシン最大蓄積は、シロイヌナズナにおける雄蕊の発達および花粉成熟を制御する
顕花植物は花粉生産の場所となる花糸および葯を含む雄性生殖器官をもつ。シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana (L) Heynh.)の成熟葯は4つの裂片構造から成り、各裂片は葯室内に花粉粒をもつ。それぞれの葯室は内側からタペート組織、中間層(ML)、内被、表皮の4つの層に覆われている。花発達ステージ初期(5〜9)で雄蕊形態形成が行われ、後期(10〜13)において花粉成熟や葯裂開、花糸伸長が行われる。受容体キナーゼであるEXCESS MICROSPOROCYTES1/EXTRA SPOROGENOUS CELLS(EMS1)およびRECEPTOR-LIKE PROTEIN KINASE2(RPK2)が、一次側膜細胞の異なる体細胞組織(タペート組織、ML、および表皮)への発達に必要であることがわかっている。転写因子であるMYC ABORTED MICROSPORES(AMS)はエキシン形成に必要な転写因子TRANSPOSABLE ELEMENT SILENCING VIA AT-HOOK(TEK)タンパク質を直接制御する。R2R3 MYB Male Sterile 188(MS188)もまた、エキシン形成に関わる。そしてヒストンH3のメチル化に関わるPHDホメオドメインを含むMALE STERILITY1(MS1)は、花粉壁のインテイン形成の役割を果たす。本研究では、オーキシンレポーターDR5::GUSを導入した葯組織の変異体のDR5活性を観察し、葯の発生におけるオーキシンの役割を解明することを目的とした。
植物試料としてのシロイヌナズナの植物体は16時間明期(24℃):8時間暗期(21℃)のサイクルで開花(4週)まで生育させた。発達中の葯におけるオーキシン分布を観察するため、オーキシンレポーターDR5::GUS導入株の花芽から10 µm切片を作成し、β-グルクロニダーゼ(GUS)解析を行った。GUS染色の結果、DR5活性がステージ9では観察されず、ステージ10初期では全ての葯でMLに局在し、いくつかの葯は前形成層でも発現した。ステージ11ではML内で観察されず、タペート組織および前形成層に局在した。次にML内のオーキシン最大蓄積とオーキシン輸送の関係を調べるため、オーキシン輸送阻害剤である1-N-ナフチルフタラミン酸(NPA)処理を行い、ステージ10においてGUS染色を行った結果、主にタペート組織においてDR5発現が見られ、モック処理花ではML内のみで見られた。またタペート組織を欠くems1変異体の葯ではDR5発現が見られず、ML内のオーキシン蓄積は主にタペート組織からの輸送によって起こることが示された。次にMLを欠如するDR5::GUSrpk2を作成し、GUS染色をした結果、野生型と比べて内被およびタペート組織でDR5が強く発現し、前形成層においては減少した。この結果から、MLの欠如が葯のオーキシン分布の変化を引き起こしたことが示された。また過去のマイクロアレイデータを考慮すると、rpk2変異体においては、タペート組織および内被における高レベルのオーキシンがいくつかのオーキシン応答性遺伝子の発現を引き起こし、前形成層におけるオーキシン蓄積の減少が後期発達ステージの花糸成長に関連するオーキシン応答性遺伝子の発現を低下させたことが示唆された。これらにより、MLの欠如によるオーキシン分布の変化が雄蕊発達の異常を引き起こしていることが示唆された。rpk2変異体において、上述のAMS、MS1、TEKに加え、減数分裂前のタペート組織発達に関与する転写因子DYT1およびTDF1のqRT-PCR解析の結果、ステージ10以前のrpk2-3花芽においてAMS、MS1、MS188、TEKの転写レベルが野生型に比べて低下しており、DYT1およびTDF1のレベルは野生型と同程度であった。また内被のリグニン化に必要な転写因子MYB26および花糸伸長に関わる転写因子AUX/IAA19の発現も野生型より低下していた。
本研究によって葯裂開、花粉成熟、花糸伸長が行われる雄蕊の後期発達期は、MLによる他組織からの正しいオーキシン分布によって制御されることが明らかにされた。
興味を持たれた方は是非ご参加ください。 澤田 稜太