2018年度前期 第6回 細胞生物学セミナー
日時 : 6月5日(火)17:00〜 場所 : 総合研究棟6階クリエーションルーム
Role of 5-aminolevulinic acid in the salinity stress response of the seeds and seedlings of the medicinal plant Cassia obtusifolia L.
Zhang, C. P., Li, Y. C., Yuan, F. G., Hu, S. J., Liu, H. Y., He, P.(2013)
Bot Stud 54:18(doi: 10.1186/1999-3110-54-18)
マメ科薬用植物エビスグサの種子および実生の塩分ストレスにおける5-アミノレブリン酸(ALA)の役割
土壌の塩分は植物において発芽、生育、生産性に影響を及ぼす非生物的ストレスである。塩分ストレス下では、植物は有害な酸素種の発生の悪影響を受け、酸化的ストレスが引き起こされる。それに対する保護機構にはフリーラジカルや過酸化物を消去するSuperoxide dismutase(SOD)等の酵素が含まれている。塩分ストレス下では発芽率が低下し、マロンジアルデヒドの増加やタンパク質分解が引き起こされる。生体内ではポルフィリン化合物の前駆体となるALAを植物に与えると、5-40 mMの高濃度ではROSのレベルを高め、酸化ストレスや除草活性をもたらす。他方、0.06-0.6 mMの低濃度では植物の生育、Chl生合成と光合成を促進し、作物収量を増加させ、ROS消去を促進することで塩分ストレス耐性を強めることも報告されている。エビスグサの種子はアントラキノンを含んでおり、頭痛やめまいなどを治療する生薬に用いられている。本研究は生薬栽培においても問題となる、塩分ストレスの緩和における外生ALAの効果を調べた。
エビスグサの種子は2%次亜塩素酸ナトリウム溶液で10分間表面滅菌し、発芽させた。実生の実験では、泥炭とパーライトを含む培地に播種し、12/12時間の光周期、25/20℃(明/暗)、相対湿度65%で生育させた。葉が2枚の段階から1/2強度のホーグランド溶液を毎日与え、葉が4〜5枚の段階で処理を開始した。塩分ストレスは100 mM NaClとし、ALAは10-100 mg/Lの濃度で毎日補充された。サンプルは分析のため4、8、12 日後に収集した。ストレスの指標としてChl含量、Chl蛍光、浸透圧調整物質やSOD等の酵素活性の測定も行った。塩分ストレス下では膜脂質の過酸化が起こり、膜透過性が増加することが報告されている。そこで膜脂質の過酸化度の指標となる、チオバルビツール酸に反応する物質(TBARS)、および量膜透過性の指標として、熱処理前後の葉からの浸出液の伝導度変化を調べた。
種子の発芽では、塩分ストレスを緩和する最適なALA濃度は10 mg/Lであり、ALAは発芽の間に種子に吸収され、塩分ストレスに耐性を付与したことが示唆される。25 mg/LのALA処理はいずれの日数においても塩分ストレス下でChl含有量を増加させた。光化学反応の効率を反映するFv/Fm等のChl蛍光の指標は塩分ストレス下で有意に減少したが、ALA濃度で処理により改善され、25 mg/Lで最も有意な効果を示した。塩分ストレス下でTBARS含量および膜透過性が増加したことから、膜がROSによって損傷し膜脂質の酸化が起こることが示された。ALAで処理した実生の葉の可溶性糖、可溶性タンパク質、遊離プロリンの含有量は塩分ストレス処理した葉より有意に高かった。細胞内のより低い浸透圧ポテンシャルは、塩分ストレス下で細胞が水を吸収するのを助けると考えられる。異なるALA濃度により3種の抗酸化酵素(SOD、peroxidase、catalase)の活性が有意に増加した。このことは3つの酵素が塩分ストレスに対抗するための異なる戦略に関することを示唆する。
本研究より、適切な濃度のALA処理がエビスグサの種子および実生に対する塩分ストレス下で誘発される損傷を有意に緩和することが明らかになった。緩和は抗酸化酵素活性の増加によるROSの補足能力の変化、Chl含量および光合成効率の増加、膜安定性の増加、細胞浸透圧の低下によって行われる。
興味を持たれた方は是非ご参加ください。 谷畑 昂士郎